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セットバックとは?後退幅の決まり方と費用の目安・売却への影響をわかりやすく解説

セットバックとは?後退幅の決まり方と費用の目安・売却への影響をわかりやすく解説

販売図面や登記の書類に「要セットバック」と書かれていて、意味がわからないまま止まっている方は少なくありません。
セットバックとは前面道路の幅を4m確保するために、建て替えのときに敷地の境界を後退させる措置です。

本記事では、対象になる道路の種類・後退幅の計算方法・費用の目安を解説します。
あわせて固定資産税と相続税の扱い、土地を売るときに何が変わるのかも取り上げます。

本記事は、読み終えるころに工事をして建て替えるか、そのまま売るかを比べられる構成です。

監修者

株式会社アシロ 社内弁護士

所属:第二東京弁護士会

弁護士登録後、東証プライム(旧東証一部)の企業内弁護士として商事契約を含む企業法務を中心に活動を行い、2025年に当社に入社。現在インハウスローヤーとして多方面から事業サポートを行う。

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セットバックとは前面道路を4mにするため敷地を後退させること

セットバックとは、幅の狭い道に接する敷地で、道路の幅を4m確保するために敷地の境界線を自分の土地側へ下げる措置を指します。
行政の書類では「道路後退」と呼ばれます。

建築基準法上の「道路」に当たるのは、原則として幅員4m以上の道です。
前面道路が4mに満たない土地では、建て替えのときに不足分を敷地側から差し出します。

通常の土地との違いは、下の表のとおりです。

項目通常の土地セットバックが必要な土地
建築確認前面道路の幅で問題にならない後退しなければ確認が下りない
敷地面積登記面積がそのまま使える後退部分は敷地面積から外れる
後退部分の使い道制限なし建築物を建てられず私的に使えない
固定資産税課税される申告すれば後退部分は非課税になる

違いが表れるのは、建て替えるとき・建物の規模を決めるとき・税金を申告するときです。
いま建て替える予定がなければ、影響が出るのは売却時の価格だけになります。

【参考】建築基準法|e-Gov 法令検索

セットバックが必要になるのは建築基準法42条2項道路に接する敷地

セットバックの対象になるのは、建築基準法42条2項に当たる道に接する敷地です。
都市計画区域などの指定時にすでに建物が立ち並んでいた幅員4m未満の道のうち、特定行政庁が指定したものが該当します。
特定行政庁とは建築確認や道路の指定を担当する自治体の長を指します。

指定された道は、幅が4mに足りなくても建築基準法上の道路です。
道の中心線から水平距離2mの線が、道路の境界線とみなされます。
登記上は自分の敷地でも、中心線から2mまでは道路の扱いです。

現場では「2項道路」「みなし道路」と呼ばれます。
販売図面に「2項道路」とあれば、後退が前提です。

一方、幅員4m未満の道でも指定がなければ、建築基準法上の道路に当たりません。
敷地が道路に接していない扱いになり、後退しても建築確認は下りません。
指定の有無は、市区町村の建築指導課で確かめられます。

【参考】建築基準法|e-Gov 法令検索

セットバックが求められる理由は災害時の避難と消防活動の確保

幅4mという基準は、消防車や救急車が進入でき、住民が避難できる幅として設けられています。
自動車が普及する前の基準で整備された道が住宅地に多く残っており、緊急車両が入れない区域を減らすことが目的です。

すでに住んでいる人へ一斉に土地の明け渡しを求めることは現実的ではありません。

そこで行政は、建て替えの機会をとらえて少しずつ道路を広げる方法を採っています。
セットバックが「建て替えるとき」に求められるのは、建て替えの機会に合わせて幅を確保する制度設計になっているためです。

国土交通省も、幅の狭い道の解消を住宅政策の課題として位置づけ、自治体が実施する後退整備を支援しています。
負担する側にとっては、後退の費用に助成を受けられるかどうかが実務上の分かれ目になります。

【参考】狭あい道路対策について|国土交通省

セットバックと私道負担は負担が発生する場面が違う

私道負担とはすでに道路として使われている部分を敷地に含めたまま売買する場合の負担をいいます。
セットバックは、建て替えのときに新しく後退させる部分を指すため、負担が発生する場面が異なります。

2つの違いは下の表のとおりです。

項目私道負担セットバック
発生する場面売買の時点ですでに道路新築・建て替えのとき
所有権売主から買主へ移る所有者に残る
敷地面積への算入算入されない後退部分は算入されない
分筆の状況分筆済みのことが多い未分筆のことが多い

販売図面に「私道負担あり」「要セットバック」が並ぶ場合もあります。
前面道路が共有の私道で、なおかつ幅が4mに満たないケースです。

どちらに当たるか書類で判断できないときは、市区町村の道路担当窓口と不動産会社の両方へ確認してください。
負担の性質を取り違えると、有効に使える面積の見積もりがずれます。

セットバックの対象になる道路は3種類ある

後退が必要かどうか、必要なら何メートル下がるのかは、前面道路がどの種類に当たるかで決まります。
いずれの種類も、判定できるのは市区町村の窓口だけです。

42条2項道路|幅員4m未満で特定行政庁が指定した道

42条2項道路とは、幅員4m未満の道のうち特定行政庁が指定したものをいいます。
都市計画区域などの指定を受けた時点で、すでに建物が立ち並んでいた道が対象です。
住宅地で見かける狭い道の多くが当てはまります。

指定を受けた道では、道の中心線から水平距離2mの線が道路の境界線とみなされます。
効果は2つで、幅が4m未満でも建築基準法上の道路として扱われる点と、中心線から2mまでの範囲に建物を建てられなくなる点です。

なお、特定行政庁が幅員6mを基準とする区域を指定している場合は、中心線から3mが原則になります。
避難と通行の安全上支障がないと認められた場合に限り、2mに緩和されます。

指定の有無は、現地を見ただけでは判断できません。
道路台帳や指定道路図は市区町村が備えているので、住所と地番を持って建築指導課へ確認してください。

【参考】建築基準法|e-Gov 法令検索

42条3項道路|土地の状況により後退幅が緩和された道

42条3項道路とは土地の状況によりやむを得ない場合に、特定行政庁が後退幅を個別に指定した道をいいます。
両側の建物が密集していて2mの後退が現実的でない区域などで使われる仕組みです。
指定にあたっては、特定行政庁が建築審査会の同意を得なければなりません。

指定された場合、中心線からの水平距離は2m未満1.35m以上の範囲です。
がけ地や川に沿う道であれば、境界線からの水平距離が4m未満2.7m以上の範囲で定められます。
つまり一律に2mや4mと決まっているわけではありません。

後退幅が0.65m縮まれば、間口10mの土地で6.5平方メートルの差になる計算です。
建てられる建物の大きさに直結します。
前面道路が3項の指定を受けていないかを確認してください。

指定の有無を確かめないまま2mを前提に計画を立てると、必要以上に敷地を削る結果になります。

【参考】建築基準法|e-Gov 法令検索

6m区域の道|中心線から3m後退が原則になる道

6m区域の道とは特定行政庁が気候や土地の状況を理由に、道路の幅員基準を6m以上と指定した区域内の道をいいます。
特定行政庁は、積雪の多い地域や、幅の広い道路網を計画的に整備している地域を指定しています。

区域内で後退が必要になるのは、幅員6m未満の道に接する敷地です。
後退幅は中心線から3mが原則で、避難と通行の安全上支障がないと認められた場合に2mへ緩和されます。
基準が4mの区域と比べると、後退距離は大きくなります。
幅員3mの道であれば、4m基準の区域は0.5m、6m区域は1.5mの後退です。

自分の土地が6m区域に入っているかどうかは、市区町村の都市計画課で確認できます。
区域指定は市町村単位ではなく区域単位で行われるため、同じ市内でも扱いが分かれます。

前面道路が共有の私道で、後退や工事をめぐって他の共有者と対立している場合は、早い段階で弁護士に相談してください。
持分や通行の権利が絡む争いは、当事者だけで進めると長期化します。

【参考】建築基準法|e-Gov 法令検索

セットバックの後退幅は道路の向かい側の状況で決まる

セットバックの後退幅は道路の向かい側の状況で決まる

後退幅は所有者が選べるものではなく、道路の向かい側に何があるかで決まります。
基準はいずれも水平距離で測ります。

向かい側が宅地の場合は道路の中心線から2m下がる

道路の向かい側も宅地であれば、道の中心線から水平距離2mの線が道路の境界線とみなされます。
自分の敷地から下がる距離は、2mから現況幅員の半分を引いて求めます。

たとえば現況の幅が3mであれば、中心線から自分側の境界線までは1.5mです。
2mとの差である0.5mが後退距離になります。
幅2.7mの道なら0.65m、幅3.6mの道なら0.2mです。
向かい側の敷地も建て替えのときに同じだけ下がるため、両側がそろった時点で4mになります。

注意したいのは、向かい側がすでに後退しているケースです。
後退済みの土地を基準に幅を測ると、中心線の位置を実際より自分側で捉えてしまい、後退距離を少なく見積もる結果になります。

中心線の位置は道路台帳や道路後退図で管理されています。
計算に入る前に、市区町村の道路管理課で中心線の位置を確認してください。

【参考】建築基準法|e-Gov 法令検索

向かい側が川や崖の場合は反対側の境界線から4m下がる

道路の向かい側が崖地・川・線路敷地などに沿っている場合、基準が変わります。
向かい側の境界線を動かせないため、崖地などの道の側の境界線から水平距離4mの線が道路の境界線とみなされます。

幅を4mにする負担を、建物が建つ側だけで負う形です。
現況の幅が3mなら1m、幅2.5mなら1.5m下がらなければなりません。
向かい側が宅地のケースと比べると、後退距離はおよそ2倍です。

間口10mの土地で比べると、向かい側が宅地なら5平方メートル、向かい側が川なら10平方メートルが敷地面積から外れます。
差が5平方メートルあると、建ぺい率60%の地域で建築面積が3平方メートル分変わります。

向かい側の水路にふたがされ、見た目では川と判別できない土地もあるので注意してください。
現況だけで判断せず、公図と道路台帳で向かい側の地目を確認してください。

【参考】建築基準法|e-Gov 法令検索

セットバックで失う面積は後退距離に間口を掛けて求める

後退で使えなくなる面積は、後退距離に道路へ接する間口の長さを掛けて求めます。
間口10mの土地で0.5m下がるなら、5平方メートルが敷地面積から外れる計算です。

現況幅員と向かい側の状況ごとに整理すると、下の表のようになります。

現況の幅員向かい側の状況後退距離間口10mのときの後退面積
3.0m宅地0.5m5.0平方メートル
2.7m宅地0.65m6.5平方メートル
3.6m宅地0.2m2.0平方メートル
3.0m川・崖・線路1.0m10.0平方メートル
2.5m川・崖・線路1.5m15.0平方メートル

角地で2方向とも幅4m未満なら、後退の対象は両方向です。
面積の減り方は1方向だけの土地より大きく、隅切りを求められる自治体もあります。

上の表で求めた面積はあくまで概算です。
正確な面積は現況測量で確定するため、契約や設計に入る前に土地家屋調査士へ測量を依頼してください。

自分の土地にセットバックが必要かは3つの資料で確認する

自分の土地にセットバックが必要かは3つの資料で確認する

手元の書類だけでは、後退の要否も後退幅も確定しません。
役所への確認と測量まで進んで、はじめて後退線が定まります。

販売図面と登記事項証明書で「要セットバック」の記載を確認する

最初の確認は手元の書類でできます。
販売図面の備考欄、重要事項説明書の「道路に関する事項」、売買契約書の特約条項を順に見てください。
「要セットバック」「セットバック要」「2項道路」の記載があれば、後退が前提になっています。

登記事項証明書では地目と地積を確認してください。
公図と地積測量図もあわせて取得してください。
分筆の有無がわかります。
後退部分がすでに分筆されていれば、地番が分かれて登記されています。

ただし、記載がないから対象外という判断は誤りです。
古い販売図面では後退の記載が省かれている例があり、相続で引き継いだ土地では書類自体が残っていない場合もある点に注意してください。

書類に記載がなくても、前面道路の幅が4mに満たないなら対象の可能性が残ります。
書類だけで判断を終えず、次の窓口確認へ進んでください。

役所の建築指導課で道路の種別と幅員を確認する

前面道路が建築基準法上のどの道路に当たるかは、市区町村の建築指導課または道路管理課でしか確定できません。
窓口では、住所・地番・公図を示したうえで次の4点を聞いてください。

  • 前面道路の種別(42条1項のどの号か、2項か、3項か)
  • 指定幅員(4mか6mか)
  • 道路の中心線の位置と後退線の位置
  • 過去に後退が記録されているかどうか

自治体によっては、道路台帳と指定道路図をインターネットで公開しています。
公開図は参考扱いで、正式な回答は窓口で得る運用が一般的です。

電話では回答しない自治体もあります。
遠方の土地であれば、仲介する不動産会社か土地家屋調査士へ役所調査を依頼してください。
調査結果は書面で受け取ると、後の交渉で根拠として使えます。

現況測量で実際の幅員と境界標の位置を測る

現況測量とは境界標や構造物の位置を測って現在の敷地の形を図面にする測量です。
境界確定測量では、隣地の所有者と立ち会って境界を確定させ、境界確認書を取り交わします。
後退面積を確定するには、どちらかの図面を用意してください。

登記上の幅員と現況が一致しない土地は珍しくありません。
よく見つかるのは、ブロック塀の越境、境界標の紛失、道路との境が曖昧なまま数十年が経過した状態です。

すでに後退して道路として使われているのに、分筆登記が済んでいない土地もあるので注意してください。
分筆登記とは1つの土地を複数に分けて別々の地番で登記する手続きです。
見た目は後退済みでも、登記上は1筆の宅地のまま残っている状態です。

測量は土地家屋調査士へ依頼してください。
隣地の所有者が立ち会いに応じない、越境をめぐって主張が対立しているといった場合は、測量と並行して弁護士に相談してください。
境界の争いは、時間が経つほど当時の資料をたどりにくくなります。

セットバックが必要な土地の3つのメリット

後退が必要な土地には不利益ばかりが並ぶわけではありません。
いずれも条件つきではあるものの、取得価格・工事の要否・建て替え後の環境という3つの面で利点があります。

同じ地域の土地より取得価格が安くなりやすい

後退が必要な土地の価格は、登記面積ではなく後退後に使える面積を基準に算定されます。
そのため、登記上の広さが同じでも周辺の相場より低い価格になりやすくなります。

たとえば100平方メートルの土地で5平方メートルの後退が必要なら、価格の根拠になる面積は95平方メートルです。
さらに買主が後退工事を負担する前提で交渉されると、工事費の見込み分も価格から差し引かれます。

地価が高い地域ほど、面積差が金額に与える影響は大きくなります。
予算を抑えたい買主にとっては、狙って探す価値のある条件です。

安く買えたかどうかは、取得価格だけでは判断できません。
測量費・分筆登記費・舗装費を足した総額で、周辺の相場と比べてください。

建て替えの予定がなければ後退工事をしなくてよい

後退が求められるのは、新築や建て替えで建築確認を受ける場面です。
既存の建物にそのまま住み続けるのであれば、工事の義務は生じません。

内装のリフォームや設備の交換であれば、建築確認が不要な場合があります。
増築や大規模な修繕にあたると確認が必要になるため、扱いは工事の規模しだいです。
境目の判断は建築士へ確認してください。

相続した空き家を現状のまま売る場合も、売主が工事を済ませる義務はありません。
買主が建て替えるときに、買主の負担で後退する形が一般的です。
売却の条件として売主が測量まで済ませるケースもあります。

「後退が必要=すぐに出費が発生する」ではありません。
いま費用がかかるかどうかの分かれ目は、建て替えるのか、住み続けるのか、売るのかです。

建て替え後は前面道路が4mに広がり防災性が上がる

自分と向かい側の双方が後退を終えると、前面道路の幅は4mになります。
消防車が進入でき、救急搬送の経路が確保され、日当たりと駐車のしやすさも改善します。

幅が4mを超えれば、大型の家具や住宅設備の搬入も楽です。
前面道路が狭いために足場の設置費用が割高になっていた土地では、工事費の条件も変わります。

周辺一帯で建て替えが進んだ区域では、道路の幅がそろって住宅地としての評価が上がる例もあります。

向かい側がいつ建て替えるかは不明です。
数十年にわたって片側だけ後退した状態が続く区域もあります。

道路が広がる前提で資金計画や売却時期を組み立てないでください。
判断の基準は、あくまで現在の幅員と後退後の有効面積です。

セットバックが必要な土地の3つのデメリット

後退が必要な土地には、建てられる建物が小さくなる、後退部分を私的に使えない、管理責任だけが残るという不利益があります。
建て替えるか売るかを決める前に、3点をあわせて確認してください。

敷地面積に算入されず建ぺい率と容積率が下がる

道路の境界線とみなされる線と道との間の部分は、敷地面積に算入されません。
建ぺい率も容積率も敷地面積を基準に計算するため、建てられる建物の規模がそのぶん小さくなります。

例として、登記面積100平方メートル・建ぺい率60%・容積率200%の土地で考えます。
後退が不要なら建築面積の上限は60平方メートル、延べ面積の上限は200平方メートルです。
5平方メートル後退すると基準は95平方メートルになり、建築面積は57平方メートル、延べ面積は190平方メートルへ下がります。

3平方メートルの差は、駐車スペースや玄関まわりの設計に直接影響します。
10平方メートル後退する土地なら、間取りの前提から変わる規模です。

土地を買う前に、後退後の面積で希望する建物が成り立つかを建築士へ確認してください。
登記面積のまま計画を進めると、確認申請の段階で設計のやり直しになります。

【参考】建築基準法施行令|e-Gov 法令検索

門や塀は建てられず駐車スペースとしても使えない

建築基準法は、建築物と敷地を造成するための擁壁について、道路内に建てたり道路へ突き出して築造したりする行為を禁じています。
後退部分は道路として扱われるため、門・塀・擁壁のいずれも設けられません。

駐車スペースや庭として使うこともできません。
花壇を置く、物置を据える、車を停めるといった使い方は、通行を妨げる行為として是正を求められる可能性があります。

既存の塀を残したまま建物だけを建て替えると、後から撤去を求められる場合があります。
建て替えの計画では、塀や門扉の位置も後退線に合わせて見直してください。

一方、建て替えをせずに住み続けるのであれば、現状のままで差し支えありません。
制限が働くのは、あくまで新築や建て替えで建築確認を受けるときです。

【参考】建築基準法|e-Gov 法令検索

所有権が残るため後退部分の管理責任も残る

後退しても、土地の所有権は所有者に残ります。
登記上の地積や地目も自動では変わりません。
売却や寄付の手続きを取らない限り、後退部分は所有者の土地のままです。

所有権が残れば、管理の責任も残ります。
舗装のひび割れ、雑草の繁茂、境界標の破損は所有者が対応します。
通行人がけがをした場合、管理が不十分だったとして責任を問われる可能性もある点に注意してください。

自治体によっては、後退部分の寄付や買取を受け付けています。
ただし境界確定測量と分筆登記が前提になり、費用の負担が先に発生します。

後退部分をそのまま持ち続けるなら、年に一度は舗装と境界標の状態を確認してください。
管理を放置すると、売却時に買主から是正を求められます。

管理の負担を抱え続けたくないなら、手放したときの価格を先に把握してください。
弁護士と連携する窓口へ相談すれば、権利関係が整理されていない状態でも進め方を確認できます。

セットバックの費用は測量と登記の要否で大きく変わる

セットバックの費用は測量と登記の要否で大きく変わる

後退にかかる金額は、現況測量で足りるか、境界確定測量と分筆登記まで必要かで数倍の差になります。
公的な統計は存在しないため、以下は事業者が公表している目安です。

測量費用と分筆登記費用は10万円から100万円程度が目安

後退にかかる費用の目安は、大きく2つのケースに分かれます。
登記の内容と現況が一致しているかどうかが分かれ目です。

ケース必要な手続き費用の目安
後退の内容と登記が一致し、現況測量で市区町村が認める現況測量約10万円〜20万円
後退の線と登記の内容が一致しない境界確定測量+分筆登記約70万円〜100万円

金額は不動産情報サイトや測量事務所が公表している目安で、土地の広さ・形状・作業量によって上下します。
後退費用に公的な統計はありません。

地方では測量士の移動範囲が広く、費用が高くなりがちです。
都市部の相場を当てはめないでください。

見積もりは土地家屋調査士へ複数依頼し、作業範囲と成果物を並べて比べてください。
金額だけでなく、境界確認書の取得まで含むかどうかで内容が変わります。

舗装や整地などの道路整備費用が別に発生する

測量と登記のほかに、後退部分を通行できる状態にする工事費がかかります。
公表されている目安では、アスファルト舗装などの道路整備費用が1平方メートルあたり3,000円〜8,000円程度です。

工事の内訳は次のとおりです。

  • 既存の塀・門扉・植栽の撤去
  • 整地と路盤の造成
  • アスファルト舗装
  • 境界標の設置

水道メーターやガス管が後退部分に埋まっていると、移設の費用が別に生じます。
前面道路に電柱が立っている場合は、電力会社との移設協議が必要になることもあります。

金額は道路の状況しだいです。
撤去物の有無と埋設物の位置を現地で確認したうえで、施工業者から見積もりを取ってください。
自治体が舗装を直接施工する地域では、所有者の負担が撤去費だけで済む場合もあります。

費用は原則として土地の所有者が負担する

後退にかかる費用は、原則として建て替えを行う土地の所有者が負担します。
行政が全額を負担する仕組みにはなっていません。
道路の幅を確保する義務が、建築確認を受ける側に課されているためです。

売買では、買主が建て替えを前提に取得するケースが多いため、買主負担が一般的です。

ただし特約で売主負担と定めることもできます。
売主が測量と分筆まで済ませて引き渡す条件にすれば、価格の交渉材料になります。

負担者を契約書に書かないまま引き渡すと、工事の段階で費用の押し付け合いになりがちです。
誰が、どこまでの範囲を、いつまでに負担するのかを特約として明記してください。

費用の負担をめぐって買主や隣地の所有者と対立している場合は、弁護士に相談してください。
契約書の解釈が絡む争いは、当事者だけで結論が出ないまま工事が止まります。

自治体の助成制度で費用の一部を賄える場合がある

国は狭あい道路整備等促進事業として、自治体が実施する後退整備を支援しています。
対象になるのは、道路の測量・調査・設計や、分筆・登記・用地の取得・築造・舗装です。

支援を受けた自治体は、独自の助成制度を設けています。
塀の撤去費に上限を設けて補助する、舗装工事を自治体が直接施工する、分筆登記の費用を負担する、といった内容です。
名称も上限額も自治体ごとに異なります。

助成の有無と要件は、市区町村の建築指導課または狭あい道路の担当窓口で確認できます。

多くの自治体で、工事に着手した後の申請は対象外です。
塀を壊してから相談しても対象外になるため、着工の前に窓口へ申請してください。

【参考】狭あい道路対策について|国土交通省

セットバック部分は申告すれば税金の負担が軽くなる

後退した部分は固定資産税が非課税になり、相続税の評価額も下がります。
ただし、いずれも申告しなければ適用されません。

固定資産税は公共の用に供する道路として非課税になる

後退して一般の通行に使われている部分は、道路として固定資産税の対象から外れます。
地方税法が、公共の用に使われる道路への課税を認めていないためです。

ただし、通行を妨げる物を置いたままの土地は対象外です。
プランターを並べる、車を停める、私物の物置を残すといった状態では、非課税の対象外と判断される可能性があります。

さらに注意したいのは、市区町村が後退の事実をすべて把握しているわけではない点です。
工事を終えても、申告しなければ従来どおり宅地として課税され続けます。

地価の高い地域では、数平方メートルでも長期の負担額が積み上がります。
工事が完了したら、次の項目の手順で速やかに申告してください。

【参考】地方税法|e-Gov 法令検索

非課税申告に必要な書類と申告先を確認する

申告先は、土地が所在する市区町村の資産税課です。
東京23区の場合は都税事務所が窓口になります。

一般的に必要な書類は次のとおりです。

  • 非課税適用申告書(自治体の様式)
  • 登記事項証明書
  • 地積測量図または現況測量図
  • 後退部分の位置がわかる図面
  • 後退後の現況写真

自治体によっては職員が現地を確認します。
舗装が済んでいない、私物が残っているといった状態では、確認の時点で認められない場合があります。

固定資産税の課税は1月1日時点の状況が基準です。
年内に申告を済ませれば翌年度の課税から反映され、年をまたぐと1年分の負担が余計に発生します。

申告が遅れた期間の税額は、さかのぼって還付されない場合があります。
工事が完了したら、年内に申告してください。

相続税評価では通常の評価額から70%が控除される

相続や贈与で取得した土地に後退が必要な部分があるときは、評価額が下がります。
国税庁は、通常どおり評価した価額から70%相当額を控除する取扱いを示しています。
つまり後退部分の評価は、本来の評価額の30%です。

自用地としての評価額が1平方メートルあたり20万円、後退部分が5平方メートルであれば、通常の評価額は100万円です。
70%にあたる70万円を控除するため、評価額は30万円になります。

適用漏れが起きやすい取扱いです。
相続人が後退の必要性を知らないまま申告すると、控除を受けないまま相続税を納めることになります。

前面道路が4mに満たない土地を相続したら、申告の前に税理士へ後退部分の有無を伝えてください。
すでに申告を終えていても、期限内であれば修正できる場合があります。

【参考】No.4604 路線価方式による宅地の評価|国税庁

要セットバックの土地を売るときは3つの点に注意する

後退が必要な土地は、価格の決まり方も手続きも通常の土地と扱いが変わります。
売る前に3点を準備しておくと、交渉が進めやすくなります。

有効宅地面積が減る分だけ価格は相場より下がりやすい

売却価格は、後退部分を除いた有効宅地面積を基準に算定されます。
登記面積が周辺の土地と同じでも、実際に建物を建てられる面積が小さいぶん、価格は相場より低くなります。

買主が後退工事を負担する前提であれば、測量費・分筆登記費・舗装費の見込み額も価格から差し引かれる扱いです。
工事費が100万円と見込まれれば、100万円だけ手取りが減る計算です。

後退部分の価格に公的な統計はありません。
買取業者や仲介会社が示す査定額も、算定の前提が会社ごとに異なります。

査定は複数社へ依頼し、有効宅地面積をいくつで計算しているか、工事費をいくら見込んでいるかを聞いてください。
前提がわかれば、査定額の差がどこから生じているかを判断できます。

後退済みでも未分筆・未登記だと買主に敬遠される

現地では後退が済んでいるのに、分筆も登記もされていない土地があります。
過去の建て替えで道路として使い始めたものの、費用を理由に登記まで進めなかったケースです。

登記と現況が食い違う土地は、買主から見て権利の範囲が読めません。
買主は測量からやり直す前提で価格を見積もるため、交渉は長引きがちです。
価格を大きく下げられる場合もあります。

境界確定測量と分筆登記まで済ませて売り出せば、面積と境界が確定した状態で買主へ引き渡せます。
費用は先に発生するものの、買主の不安要素が減るぶん交渉は進みやすい状態です。

測量に時間も費用もかけずに手放したいなら、別の方法があります。
権利関係が整理されていない土地を現状のまま買い取る事業者へ相談する方法です。
まずは現状を伝えて、条件を確認してください。

私道の共有者や隣地の同意が必要になる場合がある

前面道路が共有の私道である土地では、後退工事や水道管の引き込みに他の共有者の承諾を求められる場合があります。
私道の持分が10人以上に分かれている区域も珍しくありません。

承諾が得られないうちは、工事もライフラインの引き込みも止まったままです。
買主が住宅ローンを利用する場合、金融機関から承諾書の提出を求められる場合もあります。
相続で持分が細分化されていると、そもそも共有者の所在がつかめない状態になります。

承諾を得るには、まず私道の登記事項証明書で共有者と持分を確認してください。
共有者が多い区域では、連絡と説明だけで数ヵ月かかります。

交渉が難航しはじめた段階で弁護士に相談すると、承諾に代わる裁判所の手続きを含めて選択肢を検討できます。
売却の直前に相談しても間に合わず、契約が流れる結果になりがちです。

セットバックが必要な土地でやってはいけないこと

後退が必要な土地では、損失が大きくなる行動があります。
いずれも費用の増加か、近隣との紛争に直結します。

後退前の面積を前提に売買価格を決める

登記面積のまま坪単価を掛けて価格を決めると、後退で使えない部分にも代金を払う結果になります。
土地を買う側にとっては、実際より高い単価で取得したことになります。

例に使うのは、登記面積100平方メートル・坪単価100万円の土地です。
単純計算すると価格は約3,025万円ですが、5平方メートルが後退部分であれば、建てられる面積は95平方メートルです。
有効面積で計算し直すと約2,874万円となり、差額は約151万円になります。

契約後に食い違いが判明すると、価格の再交渉になります。
買主が減額を求め、売主が応じなければ契約が白紙に戻る場合もあるので注意してください。

価格の根拠にした面積を契約書へ明記してください。
登記面積・後退面積・有効宅地面積の3つを並べて書けば、後から解釈が分かれません。

後退部分に物を置いたまま引き渡す

後退した部分は道路として扱われるため、私物を置いたままにはできません。
塀・門扉・植木・自転車・車のいずれも、通行を妨げる物として是正を求められる可能性があります。

私物が残っていることは、固定資産税の非課税が認められない要因の一つにもなります。
市区町村の職員が現地を確認したときに私物が残っていると、公共の用に供しているとは判断されません。

引き渡し後に近隣から苦情が入れば、買主が対応することになります。
売主の説明が不十分だったとして、契約不適合の主張につながる場合もあります。

引き渡しの前に後退部分を空にして、日付のわかる現況写真を残してください。
写真は固定資産税の非課税申告でも使えます。

撤去に費用がかかる構造物が残っている場合は、負担者を契約で決めてから引き渡してください。

隣地との境界を口頭の合意だけで済ませる

境界の位置を隣地の所有者と口頭で確認しただけでは、記録が残りません。
世代が替わったときや売却のときに、合意の内容を証明できず争いになります。

記録として残るのは、境界確認書に記した立ち会いの日付・確認した位置・当事者の署名です。
測量図とセットで保管しておけば、次の建て替えや売却でそのまま使えます。

境界標が失われている土地では、復元に時間がかかります。
過去の測量図・公図・登記の記録をたどる作業が必要で、隣地の協力も前提です。
復元だけで数ヵ月かかる例もあります。

隣地が立ち会いに応じない、越境の主張が対立しているといった場合は、弁護士に相談してください。
境界の争いは、当事者だけで進めるほど資料が散逸します。

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セットバックに関するよくある質問

Q

セットバックは拒否できる?

A

拒否できません。
後退しないまま新築や建て替えを申請しても建築確認が下りないため、工事に着手できないからです。
既存の建物にそのまま住み続ける場合に限り、いま工事をする義務は生じません。

Q

セットバックをしないとどうなる?

A

建築確認が下りず、建て替えも増築もできません。
無断で建てた場合は違反建築物として是正を命じられる可能性があります。
売却時にも買主が住宅ローンを組めず、価格を大きく下げる要因です。

Q

セットバックしても再建築できない土地はある?

A

あります。
前面道路が建築基準法上の道路として指定を受けていない場合、後退しても敷地が道路に接していないと扱われます。
道路に接する長さが2mに満たない土地も同じです。
いずれも再建築不可となるため、後退の前に道路の指定と接する長さを確認してください。

Q

セットバックが必要な物件はやめたほうがいい?

A

一律に避ける必要はありません。
後退後の面積で希望する建物が建ち、工事費を含めた総額が周辺の相場より安いなら、選択肢に入ります。
判断の基準は、後退後の有効宅地面積と総額の2つです。

Q

セットバックはいつまでに実施する必要がある?

A

期限は定められていません。
後退が必要になるのは新築や建て替えで建築確認を受けるときで、建築確認申請の前までに後退線を確定させておく必要があります。
売却する場合、工事を求められるのは買主が建て替えるときです。

まとめ|セットバックは前面道路を4mにするための後退で有効宅地が減る

セットバックとは、前面道路の幅を4m確保するために敷地の境界を後退させる措置です。
対象になるのは、建築基準法42条2項などの指定を受けた道に接する敷地です。
後退幅は、向かい側が宅地なら中心線から2m、川や崖なら反対側の境界線から4mが基準になります。

費用は現況測量で足りれば10万円〜20万円程度、境界確定測量と分筆登記まで必要なら70万円〜100万円程度が目安です。
後退部分は申告すれば固定資産税が非課税になり、相続税評価も70%が控除されます。

判断の軸は、後退後の有効宅地面積で希望する建物が建つかどうかです。
建つなら工事をして建て替える、建たないなら売却へ切り替える、という順で検討してください。

権利関係や費用負担で相手方と対立しているなら、工事が止まる前に弁護士へ相談してください。

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監修者

株式会社アシロ 社内弁護士

所属:第二東京弁護士会

弁護士登録後、東証プライム(旧東証一部)の企業内弁護士として商事契約を含む企業法務を中心に活動を行い、2025年に当社に入社。現在インハウスローヤーとして多方面から事業サポートを行う。