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事故物件になった賃貸はどうする?告知義務と貸主が取るべき対応を解説
所有するアパートやマンションの一室で入居者が亡くなると、告知義務や次の募集をどう進めるべきか判断がつかなくなります。
ただし、入居者が亡くなった賃貸のすべてが事故物件になるわけではありません。
告知が必要かどうかを分けるのは死因と特殊清掃の有無の2点です。
告知を続ける期間にも上限が置かれています。
本記事では、国土交通省のガイドラインをもとに告知の要否と期間を判定する手順を整理します。
あわせて扱うのは、特殊清掃や原状回復の費用を誰が負担するのか、貸し続けるか売却するかを決める基準です。
読み終えるころには、所有する物件で次に取るべき行動が1つに定まります。

弁護士登録後、東証プライム(旧東証一部)の企業内弁護士として商事契約を含む企業法務を中心に活動を行い、2025年に当社に入社。現在インハウスローヤーとして多方面から事業サポートを行う。
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入居者が亡くなった賃貸がすべて事故物件になるわけではない

告知の要否を決めるのは、死因と特殊清掃の有無という2点です。
本章で確認する類型は次の3つです。
- 自然死と日常生活の中での不慮の死|原則として告知の対象にならない死
- 特殊清掃が必要になった死|自然死でも告知の対象へ切り替わる
- 自死・他殺・火災による死|賃貸でも売買でも告知の対象になる
| 類型 | 死の例 | 賃貸での告知の要否 |
|---|---|---|
| 自然死・日常生活の中での不慮の死 | 老衰、持病による病死、階段からの転落、入浴中の溺死 | 原則として不要 |
| 特殊清掃や大規模リフォームが行われた死 | 発見が遅れた孤独死 | 必要(発覚からおおむね3年) |
| 自然死・不慮の死に当たらない死 | 自死、他殺、火災による死 | 必要(発覚からおおむね3年) |
自然死と日常生活の中での不慮の死|原則として告知の対象にならない死
事故物件は法令上の用語ではなく、不動産業界では心理的瑕疵のある物件として扱います。
心理的瑕疵とは建物に物理的な壊れがなくても、過去の出来事によって借主が住み心地の良さを損なわれる欠陥です。
近隣の嫌悪施設も心理的瑕疵の一種ですが、本記事では人の死に絞ります。
自然死とは老衰や持病による病死のように外的な要因によらない死です。
国土交通省は自然死を原則として告知不要と整理しました。
人口動態統計(令和元年)によれば、自宅で亡くなった方のうち老衰や病死が9割を占めています。
居住用の建物で起こると当然に想定される死だから、というのが整理の根拠です。
裁判例でも自然死について心理的瑕疵に当たらないと判断したものがあります。
さらに、階段からの転落や入浴中の溺死といった日常生活の中での不慮の事故による死も同じ扱いです。
国土交通省は、賃貸でも売買でも借主や買主へ告げなくてよいと整理しました。
【参考元】宅地建物取引業者による人の死の告知に関するガイドライン(国土交通省・令和3年10月)
特殊清掃が必要になった死|自然死でも告知の対象へ切り替わる
特殊清掃とは孤独死などが起きた住居で原状回復のために消臭・消毒や清掃を専門的に行うサービスを指します。
老衰や病死であっても、長期間発見されずに特殊清掃や大規模リフォームが行われた場合は扱いが変わります。
借主が契約するかどうかの判断に重要な影響を及ぼすため、告知の対象です。
発見の遅れは珍しい事態ではありません。
日本少額短期保険協会の第10回孤独死現状レポートによれば、孤独死の発生から発見までの平均日数は19日でした。
同レポートでは孤独死のうち男性が83.3%を占めます。
死亡時の平均年齢は63.6歳でした。
半月以上を経て発見される事案が一定数ある以上、自然死だからという理由だけで告知不要と判断するのは危険です。
つまり、判定の分かれ目は死因ではなく、特殊清掃や大規模リフォームが行われたかどうかにあります。
清掃業者へ依頼した記録が残っている事案は、告知の対象として扱ってください。
【参考元】第10回孤独死現状レポート(日本少額短期保険協会 孤独死対策委員会・2025年12月)
自死・他殺・火災による死|賃貸でも売買でも告知の対象になる
自死、他殺、火災による死は、自然死にも日常生活の中での不慮の死にも当たりません。
国土交通省のガイドラインが告知不要と整理したのは、限定して列挙された場合だけです。
列挙から外れる死を、ガイドラインは借主や買主の判断に重要な影響を及ぼすものとして位置づけています。
賃貸と売買のどちらでも告知の対象になる点は共通です。
一方で、告知を続ける期間の目安は賃貸借取引にだけ示されており、売買には期間の目安が置かれていません。
所有する物件を将来売却する予定がある場合は、賃貸の目安をそのまま当てはめないでください。
そのため、告知が必要と判断したら、募集を依頼する仲介会社へ事実を正確に伝えてください。
貸主が事実を伏せると、仲介会社は借主へ説明できません。
説明できないまま契約が成立すると、責任は貸主と仲介会社の双方に及びます。
事故物件になった賃貸の告知義務は発覚からおおむね3年が目安

賃貸借取引では、告知の対象になる死が発覚してからおおむね3年で告知が不要になります。
本章で扱う論点は次の3つです。
- 告知が必要な期間の起算点は死亡日ではなく発覚した日
- 3年を過ぎても告知が必要になるのは事件性や周知性が高い事案
- 借主から質問されたら期間を過ぎていても答える必要がある
告知が必要な期間の起算点は死亡日ではなく発覚した日
国土交通省のガイドラインは、法令そのものではありません。
宅地建物取引業法上の義務をどう解釈するかを示した基準です。
ガイドラインは、自然死・不慮の死以外の死が発生した場合について期間の目安を定めています。
特殊清掃が行われた自然死等も同じ扱いです。
発覚してからおおむね3年間を経過した後は、原則として借主へ告げなくてよいと国土交通省は整理しました。
数え始めは死亡した日ではなく、貸主や管理会社が事実を把握した日です。
たとえば、孤独死のように死亡推定日と発見日がずれる事案では、実質的な告知期間が死亡日起算より長くなります。
死亡推定日が起点だと誤解したまま募集条件を戻すと、告知漏れにつながります。
発見日、警察からの連絡日、特殊清掃を実施した日の3つを記録に残してください。
管理会社と共有しておけば、担当者が交代しても起算点が失われません。
3年を過ぎても告知が必要になるのは事件性や周知性が高い事案
ガイドラインは、事件性や周知性、社会に与えた影響等が特に高い事案を目安の適用外としています。
報道された事件や近隣へ広く知れ渡った事案では、3年を過ぎても告知が必要です。
判定の材料は主に2つあります。
1つ目は報道の有無で、新聞やテレビ、ニュースサイトで取り上げられたかを確認します。
2つ目は近隣での認知の広がりです。
周辺の住民や地域の掲示物に事案が残っていないかを管理会社に確かめてください。
そのため、該当するかどうか迷う事案は、自己判断で3年を区切りにしないでください。
管理会社と弁護士の双方へ事実関係を伝え、告知を続けるかどうかの判断を仰いだうえで募集条件を決めましょう。
ベンナビ不動産売却では、売却の無料相談を受け付けています。
借主から質問されたら期間を過ぎていても答える必要がある
ガイドラインは、発覚からの期間や死因にかかわらず、借主から事案の有無を問われた場合の扱いを別に定めています。
3年を過ぎた事案であっても、質問を受けたときは調査で判明した内容を告げなければなりません。
社会的影響の大きさから借主が把握しておくべき特段の事情があると認識した場合も同じです。
なお、貸主や管理会社へ照会しても事実が不明だったときは、不明である旨を伝えれば足ります。
無回答だった場合も同じ扱いです。
憶測で「何もありません」と答えてはいけません。
後から事実が判明したときに紛争へ発展します。
募集を始める前に、想定される質問と回答を管理会社と共有してください。
窓口ごとに回答が食い違う状態を避けられます。
仲介会社の担当者が複数いる場合は、回答の担当を1人に決めておくと確実です。
【参考元】宅地建物取引業者による人の死の告知に関するガイドライン(国土交通省・令和3年10月)
同じ建物の別の部屋や共用部分で人が亡くなった場合の告知の要否
1棟のアパートやマンションを所有していると、募集する部屋そのもの以外で人が亡くなる場面が出てきます。
告知の範囲は場所によって3つに切り分けられます。
募集する部屋、借主が日常的に使う共用部分、隣接住戸と通常使わない共用部分の3つです。
まず、日常的に使う共用部分で起きた死は募集する部屋と同じ扱いになります。
一方で、隣の部屋や通常使わない共用部分で起きた死は原則として告知が不要です。
判断を誤った場合に起きるのは、必要のない値下げか告知漏れです。
告知が必要な範囲を広く取りすぎると、賃料収入を自ら削る結果になります。
逆に狭く取りすぎれば、契約後に借主から解除や損害賠償を求められかねません。
場所ごとの線引きを先に固めてから、募集条件の検討へ進んでください。
日常的に使うエレベーターや廊下は対象の部屋と同じ扱いになる
借主が日常生活において通常使用する必要がある共用部分は、賃貸借取引の対象不動産と同様に扱います。
借主が住み心地の良さを損なわれると考えられるためです。
該当する場所は次のとおりです。
- 共用の玄関
- エレベーター
- 廊下や階段のうち通常使用する部分
- ベランダなど専用使用が可能な部分
募集する部屋と同じ扱いになる以上、発覚からおおむね3年という期間の考え方もそのまま当てはまります。
エレベーター内で自死が起きた場合、建物内の各室を募集する際に告知が必要です。
そのため、管理組合や管理会社の記録で、発生した日と場所を確認しておいてください。
分譲マンションの一室を貸している場合は、管理組合の議事録に記載が残っている場合があります。
記録が見つからないときは、管理会社へ書面で照会して回答を残しましょう。
隣接住戸や通常使わない共用部分での死は原則として告知が不要
ガイドラインは、賃貸借取引と売買取引のどちらでも、取引の対象ではない隣接住戸で起きた死を原則として告げなくてよいとしています。
借主や買主が日常生活で通常使用しない共用部分も同じ扱いです。
屋上の設備スペースや、居住者がほとんど立ち入らない機械室が該当します。
ただし事件性、周知性、社会に与えた影響等が特に高い事案は例外です。
他の部屋の入居者へ事情を説明する法律上の義務もありません。
近隣住民への説明義務についても同様です。
一方で、噂が広がった結果として他の入居者が退去する事態は実務上ありえます。
そのため、説明するかどうかは管理会社と方針をすり合わせてから決めてください。
説明する場合も、亡くなった方の氏名や具体的な死の態様までは伝えないよう線を引いておきましょう。
【参考元】宅地建物取引業者による人の死の告知に関するガイドライン(国土交通省・令和3年10月)
入居者が亡くなってから再び貸し出すまでの4ステップ

発見直後から募集の再開までは、次の4つの手順で進めます。
全体で1か月から3か月程度を見込んでください。
- ①警察へ連絡し、室内のものには手を触れない
- ②相続人と連帯保証人に連絡して賃貸借契約の解約を進める
- ③特殊清掃と原状回復で室内を貸せる状態に戻す
- ④告知する4点を書面にして仲介会社と共有する
①警察へ連絡し、室内のものには手を触れない
貸主や管理会社が第一発見者になった場合、遺体や室内のものには触れず、移動もさせないでください。
事件性の有無を判断するのは警察であり、現場が動かされていると確認に時間がかかります。
まず110番へ連絡し、到着を待ってください。
警察の現場確認が終わるまで、特殊清掃の業者を室内へ入れられません。
清掃の日程を組めるのは、警察の確認が完了してからです。
遺品の引き取りについても、相続人の意向を確認する前に処分してはいけません。
無断で処分すると、相続人から損害賠償を求められます。
あわせて、管理会社にも同時に連絡し、以後の窓口を一本化してください。
貸主と管理会社が別々に相続人へ連絡すると、取り決めの内容が食い違います。
連絡した日時と相手を記録に残しておけば、後の交渉で経緯を示せます。
②相続人と連帯保証人に連絡して賃貸借契約の解約を進める
賃借人が亡くなっても、賃貸借契約は自動的には終わりません。
相続人は、相続開始の時から被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継します。
民法896条が定める相続の一般的効力です。
賃借権も承継の対象になるため、部屋を明け渡してもらうには相続人と解約の合意を取り交わす必要があります。
取り決める項目は次のとおりです。
| 項目 | 内容 | 注意点 |
|---|---|---|
| 賃貸借契約の解約 | 解約日と明け渡し日を決める | 相続人が複数いる場合は全員の意思を確認する |
| 残置物の引き取り | 家財や遺品を誰がいつ引き取るか | 相続人の同意なく処分しない |
| 未払い賃料 | 死亡日までの賃料と死亡後の賃料を分けて精算する | 明け渡しまでの賃料の扱いを明記する |
| 敷金の精算 | 未払い賃料や原状回復費を差し引いて返還する | 民法622条の2の定めに沿って残額を返す |
| 特殊清掃費と損害賠償 | 誰がいくら負担するかを金額で確定する | 口頭ではなく合意書に残す |
なお、敷金については、賃貸借が終了して部屋の返還を受けたときの扱いを民法622条の2が定めています。
賃料債務など賃借人が負う金銭債務の額を差し引いた残額を返還する仕組みです。
差し引く費目を先に決めておけば、返還額をめぐる争いを避けられます。
ただし、相続人が複数いる場合や相続放棄が予想される場合は、解約の合意書を交わす前に弁護士へ相談してください。
合意の相手を誤ると、後から別の相続人が合意の無効を主張します。
③特殊清掃と原状回復で室内を貸せる状態に戻す
特殊清掃は臭気や汚損を除去する作業で、原状回復工事は床材や壁紙を張り替えて内装を戻す作業です。
汚損の程度によっては、清掃だけでは貸せる状態に戻りません。
なぜなら、血液や体液には油分が含まれているからです。
床材や壁紙に染み込むと、消臭だけでは臭気が戻ります。
工事の範囲を決める材料は次の3点です。
- 清掃後に臭気が残っているか
- 汚損が下地や床下まで浸透しているか
- 害虫が発生しているか
3点のいずれかに当てはまる場合は、床材や壁紙の張り替えまで見込んでください。
汚損が建物の基礎部分にまで達していれば、床を剥がす規模の工事になります。
見積もりは複数社から取り、内訳を単価と数量で出してもらってください。
一式表記だけの見積もりでは、他社と比較できません。
④告知する4点を書面にして仲介会社と共有する
借主へ告げる内容は次の4点です。
事案の発生時期・場所・死因と、特殊清掃が行われた旨を伝えます。
宅地建物取引業者は、契約が成立するまでの間に宅地建物取引士に、借主へ書面を交付させ、重要事項を説明させなければなりません。
宅地建物取引業法35条の定めです。
貸主が把握している事実を仲介会社へ渡さなければ、説明そのものが成り立ちません。
| 告げる項目 | 書き方の例 | 補足 |
|---|---|---|
| 発生時期 | 2025年5月に発生 | 特殊清掃が行われた場合は発覚した時期を書く |
| 場所 | 本物件の居室内 | 共用部分の場合は場所を特定する |
| 死因 | 自死 | 不明な場合は不明と書く |
| 特殊清掃の有無 | 特殊清掃を実施済み | 実施した範囲まで書く必要はない |
一方で、貸主は亡くなった方と遺族の名誉や生活の平穏へ配慮しなければなりません。
ガイドラインが告げなくてよいとしたのは、氏名や年齢、住所や家族構成、具体的な死の態様や発見状況です。
詳細を書き込むほど適切になるわけではありません。
告知は書面の交付によることが望ましいとされています。
物件状況報告書(告知書)に4点を記載し、控えを保管してください。
孤独死1件あたりの平均損害額は112万円を超える
日本少額短期保険協会の第10回孤独死現状レポートによれば、孤独死が起きた場合の平均損害額は112万円を超えます。
遺品整理、原状回復、家賃損失の3費目を合わせた金額です。
集計期間は2015年4月から2025年3月まで、対象は12,105件でした。
| 費目 | 平均損害額 | 最大損害額 |
|---|---|---|
| 遺品整理(残置物処理)費用 | 294,131円 | 4,253,473円 |
| 原状回復費用 | 494,344円 | 7,564,673円 |
| 家賃損失(平均支払保険金) | 337,035円 | 集計なし |
孤独死保険の支払い実績から集計された数値のため、実際に費用が発生した事案の水準を表しています。
自分の物件で見積もりを取る前の目安として使ってください。
3費目のうち貸主が直接支払うのは遺品整理と原状回復で、家賃損失は空室期間に応じて後から積み上がります。
見積もりを取る段階では前の2つを、募集条件を決める段階では3つ目を見てください。
本章では、費目ごとの内訳と家賃の下げ幅を順に確認します。
遺品整理と原状回復の平均損害額は合わせて約78万円
遺品整理費用の平均損害額は約29万円、原状回復費用の平均損害額は約49万円で、合計すると約78万円になります。
孤独死保険で支払われた保険金の平均は、遺品整理が約29万円、原状回復が約32万円でした。
原状回復については損害額と保険金に開きがあり、自己負担が残る構図です。
ただし、平均から大きく外れる事案もあります。
原状回復費用の最大損害額は約756万円、遺品整理費用の最大損害額は約425万円でした。
汚損が下地や床下まで達すると、居室の内装をほぼ全面的に作り直す規模になります。
平均値だけで予算を組まないでください。
発見までにかかった日数と汚損の範囲を業者へ伝え、下限と上限の幅で見積もりを取りましょう。
上限側の金額で資金を用意できるかが、工事へ進むかどうかの分かれ目になります。
家賃の減額幅は相場の2〜3割が中心
告知したうえで募集する場合、家賃を相場から2〜3割下げる例が実務では中心になります。
事故物件の家賃には公的な統計がなく、参照できるのは民間の公表値です。
訳あり物件を扱う買取事業者や賃貸管理会社が公表する数値では、通常の70〜80%程度という記載が多く見られます。
数値の出どころが業者ごとに異なる点は差し引いて読んでください。
さらに、空室が続く間の損失も費用に含めて考えてください。
前掲の第10回孤独死現状レポートでは、家賃損失に対する平均支払保険金は約34万円でした。
家賃10万円の部屋であれば、3か月半ほどの空室に相当します。
家賃10万円の部屋を例に取ると、下げ幅ごとの年間差額は次のとおりです。
| 下げ幅 | 募集家賃 | 年間の家賃収入 | 従来との年間差額 |
|---|---|---|---|
| 下げない | 100,000円 | 1,200,000円 | 0円 |
| 2割 | 80,000円 | 960,000円 | −240,000円 |
| 3割 | 70,000円 | 840,000円 | −360,000円 |
下げ幅を先に決め打ちしないでください。
募集を開始してから2か月ごとに問い合わせ件数と内見件数を確認し、反響が乏しい場合にだけ段階的に条件を見直しましょう。
【参考元】第10回孤独死現状レポート(日本少額短期保険協会 孤独死対策委員会・2025年12月)
特殊清掃や原状回復の費用は死因によって負担者が変わる
費用を貸主が負担するか遺族へ請求できるかは死因で変わります。
請求の対象は特殊清掃費・原状回復費・家賃の減額分です。
本章で扱う論点は次の3つです。
- 自死の場合は相続人や連帯保証人へ請求できる余地がある
- 自然死や病死の場合は貸主の負担になるのが原則
- 相続放棄や連帯保証人の不在で請求先が消える場合がある
| 死因 | 特殊清掃費・原状回復費 | 家賃の減額分 | 請求先 |
|---|---|---|---|
| 自死 | 請求できる余地がある | 請求できる場合がある | 相続人・連帯保証人 |
| 他殺 | 貸主の負担が原則 | 請求は難しい | — |
| 自然死・病死 | 貸主の負担が原則 | 請求は難しい | — |
| 自然死で発見が遅れた場合 | 拡大した部分は争いになる | 請求は難しい | 相続人・連帯保証人 |
自死の場合は相続人や連帯保証人へ請求できる余地がある
賃借人は、借りた部屋に生じた損傷を、賃貸借が終了したときに元へ戻す義務を負います。
民法621条が定める原状回復義務です。
通常の使用によって生じた損耗と経年変化は義務の範囲から除かれます。
賃借人に責任がない事情で生じた損傷も対象外です。
そのため、自死のように賃借人側に責任を問える事案では、原状回復義務を承継した相続人や連帯保証人へ費用の負担を求められます。
請求の枠組みとしては、賃貸借契約上の義務違反として民法415条の債務不履行による損害賠償を用いるのが一般的です。
請求できる範囲に家賃の減額分が含まれる場合もあります。
ただし、何年分の減額を損害として認めるかは事案ごとに判断が分かれます。
金額を自分で決め打ちせず、弁護士へ請求範囲を組み立ててもらってから交渉に入りましょう。
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自然死や病死の場合は貸主の負担になるのが原則
自然死や病死では、賃借人に責任がない事情で生じた損傷として扱うため、原状回復義務の範囲から外れます。
民法621条ただし書に沿って考えると、相続人や連帯保証人への請求は認められにくくなります。
費用は貸主の負担が原則になると考えてください。
一方で、発見が遅れて汚損が拡大した部分については扱いが分かれます。
通常の原状回復を超える規模の工事が必要になった部分は、責任の所在が争いになる場合があります。
判断材料になるのは、放置された期間の長さと、賃借人が安否確認の連絡を拒んでいた事情の有無です。
自然死の事案では、請求できない前提で費用計画を立ててください。
回収を待つほど募集の開始が遅れ、空室期間の損失が積み上がります。
【参考】民法(e-Gov 法令検索)
相続放棄や連帯保証人の不在で請求先が消える場合がある
相続人全員が相続を放棄すると、原状回復義務も承継されなくなるため、請求の相手は連帯保証人へ移ります。
連帯保証人を立てていない契約では、請求先そのものがありません。
負債が多い被相続人の事案では、相続放棄が選ばれる可能性を早い段階で見込んでおきましょう。
請求先が消える典型的な場面は次の3つです。
- 相続人全員が相続を放棄した
- 連帯保証人が既に亡くなっている、または高齢で支払い能力がない
- 契約時に連帯保証人を立てていない
そこで、賃貸借契約書を取り出し、連帯保証人の記載と家賃債務保証会社の利用状況を確認してください。
保証会社を利用している場合は、原状回復費や残置物処理費が保証の対象に含まれるかを約款で確かめてください。
対象外であれば、回収を待たずに工事の判断へ進みましょう。
告知したうえで入居者を決めるための3つの打ち手
告知したまま従来どおりの条件で募集しても、決まるまでに時間がかかります。
次の3つを組み合わせて条件を組み直しましょう。
- 家賃と初期費用を下げて費用を抑えたい層に届ける
- 内装を一新して割安感のある物件として売り出す
- 定期借家契約で貸して次の判断の時期を決めておく
家賃と初期費用を下げて費用を抑えたい層に届ける
フリーレントとは入居してから一定期間の家賃を無料にする条件を指します。
敷金・礼金の無料化と組み合わせると、初期費用を抑えたい層へ訴求できます。
転居費用を用意しにくい単身者や学生にとって、判断材料になるのは月々の家賃より初期費用の総額です。
先に見直すのは初期費用です。
家賃を下げると更新のたびに戻しにくくなり、同じ建物の他の部屋を募集するときの相場観にも影響が残ります。
初期費用の圧縮であれば、次の募集で元へ戻せます。
そのうえで、募集開始から2か月ごとに問い合わせ件数を確認し、条件を段階的に見直してください。
初回の設定で決め切ろうとせず、反響の推移を見ながら少しずつ見直す進め方が結果的に空室期間を短くします。
管理会社には内見数と申し込み数を分けて報告してもらいましょう。
内装を一新して割安感のある物件として売り出す
原状回復は貸せる状態に戻す工事で、内装の一新は物件の魅力を引き上げる工事です。
目的が違うため、原状回復の見積もりに内装工事を混ぜないでください。
混ぜると、遺族や連帯保証人へ請求できる範囲もあいまいになります。
具体的には、壁紙と床材の張り替えに加えて水回りを改修すると、家賃の下げ幅を小さく抑えられます。
同じ広さと築年数の物件より内装がきれいで家賃が安い状態を作ってください。
借主にとって選ぶ理由が生まれます。
告知を受けても検討を続ける層は一定数います。
工事費を回収できる年数を、工事の前後で見込める家賃の差から計算してください。
回収に5年を超える見込みであれば、工事をせず現況のまま売却する選択へ切り替えましょう。
判断の材料がそろわないうちに発注すると、費用だけが先に出ていきます。
定期借家契約で貸して次の判断の時期を決めておく
期間の定めがある建物の賃貸借では、契約の更新がない旨を定められます。
借地借家法38条が認める定期建物賃貸借です。
公正証書による等書面で契約するときに限られます。
期間の満了で契約が終わるため、告知が不要になる時期に合わせて条件を組み直せる点が利点です。
ただし、契約の前には、更新がなく期間の満了によって賃貸借が終了する旨を記載した書面を借主へ交付し、説明しなければなりません。
説明を欠くと更新がない旨の定めは無効になり、通常の賃貸借契約として扱われます。
発覚からおおむね3年が明ける時期から逆算して契約期間を設計してください。
告知が不要になった時点で相場に近い家賃へ戻せるため、値下げが固定化する事態を避けられます。
事故物件になった賃貸で貸主が取れる出口の選択肢

出口は4つに整理できます。
そのまま貸し続ける、リフォームして貸す、仲介で売る、買取で売るの4つです。
手元に残る金額と決着までの期間は正反対の関係にあり、両方を同時に最大化する道はありません。
| 選択肢 | 手元に残る金額の傾向 | 決着までの期間 | 手間 | 向く場合 |
|---|---|---|---|---|
| そのまま貸し続ける | 家賃収入は続くが減額分だけ目減りする | 入居が決まるまで不定 | 募集と管理が続く | 賃貸需要が強い立地で、原状回復費が小さい |
| リフォームして貸す | 工事費を先に負担し、家賃で回収する | 工事1〜2か月+募集期間 | 工事の発注と管理が必要 | 工事費を5年以内に回収できる家賃差が見込める |
| 仲介で売る | 買取より高くなりやすい | 3か月から1年以上 | 内覧対応と告知の説明が続く | 急がず、告知を受けても買う個人を待てる |
| 買取で売る | 仲介より低くなりやすい | 数日から1か月程度 | 現況のまま引き渡せる | 早く手放したい、清掃や工事の費用を出せない |
期間を優先するなら買取、金額を優先するなら仲介か貸し続ける選択が候補です。
事故物件の買取実績がある業者は、告知が必要な物件の値付けや再販の方法を持っています。
一般の仲介会社に断られた物件でも取り扱えるため、取り扱い可否の確認から始めてください。
なお、一棟をまとめて手放す場合は、入居者の退去交渉まで代行できるかも確認してください。
立ち退きの交渉と費用負担を自分で抱えると、決着までの期間が読めなくなります。
代行の可否は業者ごとに分かれるため、査定を依頼する時点で確かめてください。
条件別に貸し続けるか売るかを決める基準
4つの出口から1つを選ぶ基準は、募集の反響、原状回復費と年間家賃の比較、相続人の人数の3点です。
いずれか1つでも当てはまる場合は、売却の検討に入ってください。
- 募集開始から6か月決まらないなら売却へ切り替える
- 原状回復費が年間家賃を超えるなら保有を続けない
- 相続人が複数いるなら先に弁護士へ相談する
募集開始から6か月決まらないなら売却へ切り替える
告知したうえで6か月募集して決まらない部屋は、さらに値下げを重ねても決まる保証がありません。
空室の間も固定資産税、管理費、共用部の光熱費は出ていきます。
収入がゼロのまま支出だけが続く状態を、値下げの回数で解決しようとしないでください。
さらに、値下げを重ねる副作用も見込んでおいてください。
一度下げた家賃は次の更新時に戻しにくく、同じ建物の他の部屋を募集する際の基準にもなります。
1室の値下げが建物全体の収益を押し下げる結果になりかねません。
6か月を過ぎたら査定を取ってください。
売却した場合の手取り額と、値下げして貸し続けた場合の年間収支を並べて比べれば、どちらが有利かは数字で判断できます。
査定は無料で受けられるため、売る意思が固まっていない段階でも取って構いません。
原状回復費が年間家賃を超えるなら保有を続けない
原状回復費用の平均損害額は約49万円ですが、汚損が下地まで達した事案では数百万円に達します。
最大では約756万円という記録もありました。
見積額が年間の家賃収入を超えた時点で、工事をして貸し続ける選択は割に合わなくなります。
なお、回収期間の計算では、告知後の家賃を使ってください。
工事前の家賃で計算すると、実際の回収年数より短く見積もってしまいます。
家賃を2割下げるなら、回収に必要な年数は単純計算で1.25倍に伸びます。
現況のまま買い取る業者であれば、清掃や解体は不要です。
工事の見積もりと買取査定を同時に取り、手元に残る金額を並べて比べてから発注を決めましょう。
工事を先に発注してしまうと、比較の機会そのものが失われます。
相続人が複数いるなら先に弁護士へ相談する
相続した賃貸物件を複数人で共有している場合、物件そのものを売却するには共有者全員の同意が必要です。
売却が進まなくなるのは、1人でも反対した場合です。
告知義務のある物件は共有者の間でも評価が分かれやすく、合意の形成に時間がかかります。
さらに、合意を待つ間も空室期間は延び、固定資産税は共有者全員に発生し続けます。
話し合いが長引くほど、全員の手取りが減る構図です。
相続登記を済ませていない場合は、名義の整理も同時に進める必要があります。
自分の持分だけを先に売る方法もあります。
持分の売却に他の共有者の同意は不要です。
ただし持分だけの売却は物件全体を売る場合より金額が下がるため、合意形成にかかる時間と手取り額を比べて決めてください。
事故物件になった賃貸でやってはいけない3つの行動
告知義務違反と安値での売却は、後から取り返しがつきません。
避けるべき行動は次の3つです。
3つとも、後から是正しようとしても契約が成立した後では手遅れになる点で共通します。
- 告知せずに貸し出す
- 短期の入居者を挟んで告知義務が消えたことにする
- 査定を1社だけ取って売る先を決める
告知せずに貸し出す
宅地建物取引業者には、契約の締結について勧誘する際に禁じられる行為があります。
宅地建物取引業法47条1号が挙げる禁止行為です。
借主の判断に重要な影響を及ぼす事項について、故意に事実を告げず、または不実のことを告げる行為が対象です。
告知の対象になる事案を伏せたまま契約すると、仲介した宅地建物取引業者が監督処分の対象になります。
また、貸主側も民事責任を負います。
借主から求められるのは契約の解除のほか、民法415条の債務不履行や709条の不法行為を根拠とした損害賠償です。
引っ越し費用や慰謝料が請求の対象に含まれた事案も報告されています。
ガイドラインどおりに対応しても、民事上の責任を必ず回避できるわけではありません。
告知の要否に迷う事案は、募集を始める前に弁護士へ確認してください。
短期の入居者を挟んで告知義務が消えたことにする
誰かを短期間住まわせれば告知が不要になるという扱いは、国土交通省のガイドラインに存在しません。
ガイドラインが告知不要と整理したのは3つの場合だけです。
自然死等が発生した場合、賃貸借取引で発覚から概ね3年を経過した場合、隣接住戸等で発生した場合の3つが該当します。
したがって、入居者を挟んだかどうかは判断の要素として示されておらず、期間を短縮する根拠になりません。
実務で耳にする「1人挟めばリセットされる」という説明を、そのまま受け取らないでください。
物件名の変更やオーナーの交代によって情報が引き継がれなかった事案も、告知義務違反として争われます。
売却する際は、買主へ事案を伝えたうえで引き継ぎの記録を残してください。
査定を1社だけ取って売る先を決める
告知義務のある物件は値付けの根拠が業者ごとに異なります。
一般的な仲介会社では取り扱いを断られる場合もあります。
1社の提示額だけでは、高いか安いかの判断は困難です。
複数社へ依頼し、金額の根拠を書面で出してもらいましょう。
そこで、比較する項目を4点にしぼって見比べてください。
- 清掃や解体をせず現況のまま引き渡せるか
- 残置物の処理費を売主と買主のどちらが負担するか
- 契約不適合責任の免責をどう定めるか
- 契約から引き渡しまでにかかる期間
買主は、引き渡された目的物が契約の内容に適合しない場合に権利を行使できます。
民法562条が定める買主の追完請求権です。
種類、品質または数量に関して適合しないとき、買主は売主に対し、修補や代替物の引き渡しによる履行の追完を請求できます。
事故物件の売却では、免責の範囲を契約書でどう定めるかが引き渡し後の責任を左右します。
免責条項の有無と範囲を必ず確認してください。
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事故物件になった賃貸に関するよくある質問
事故物件は何年経てば告知しなくてよくなる?
賃貸借取引では、告知の対象になる死が発覚してからおおむね3年が目安です。
数え始めは死亡日ではなく、貸主や管理会社が事実を把握した日になります。
ただし事件性、周知性、社会に与えた影響等が特に高い事案は3年を過ぎても告知が必要です。
事故物件を黙って貸すとどうなる?
借主から契約の解除や損害賠償を求められ、仲介した宅地建物取引業者も宅地建物取引業法違反を問われます。
借主から事案の有無を質問された場合は、発覚からの期間や死因にかかわらず、調査で判明した内容を告げなければなりません。
事故物件の家賃はどれくらい安くなる?
公的な統計はなく、実務では相場から2〜3割下げる例が中心です。
訳あり物件を扱う買取事業者や賃貸管理会社の公表値では、通常の70〜80%程度という記載が多く見られます。
立地の賃貸需要と汚損の程度で幅が出るため、募集の反響を見ながら調整してください。
売却するときも告知義務は3年で切れる?
切れません。
おおむね3年という目安が示されたのは賃貸借取引だけで、売買取引に期間の定めはない点が違いです。
期間の経過だけを理由に告知を省くと、契約不適合責任や損害賠償を問われます。
孤独死保険に入っていれば費用は全額まかなえる?
全額はまかなえません。
第10回孤独死現状レポートでは、原状回復費用の平均損害額49万円に対して平均支払保険金は32万円で、6割ほどにとどまりました。
遺品整理費用はほぼ全額が支払われている一方、原状回復費用は自己負担が残ります。
【参考元】第10回孤独死現状レポート(日本少額短期保険協会 孤独死対策委員会・2025年12月)
まとめ|賃貸の告知は発覚からおおむね3年・死因と特殊清掃で要否が決まる
告知が必要かどうかは死因と特殊清掃の有無で決まり、賃貸借取引では発覚からおおむね3年が目安になります。
特殊清掃と原状回復の費用は、自死のように賃借人側に責任を問える事案でなければ貸主の負担です。
孤独死1件あたりの平均損害額は112万円を超えます。
回収できない前提で費用計画を立ててください。
告知の対象になると判断したら、発生時期・場所・死因・特殊清掃の有無の4点を書面にして仲介会社と共有してください。
募集して6か月決まらない場合や、原状回復費が年間家賃を超える場合は、貸し続ける選択が割に合いません。
次に取るべき行動は1つです。
原状回復工事の見積もりと買取査定を同時に取り、工事をして貸し続けた場合の年間収支と、売却した場合の手取り額を並べて比べてください。
数字が出れば、貸し続けるか売るかを判断する根拠がそろいます。
迷う場合は、「ベンナビ不動産売却」で無料査定を依頼してみてください。
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弁護士登録後、東証プライム(旧東証一部)の企業内弁護士として商事契約を含む企業法務を中心に活動を行い、2025年に当社に入社。現在インハウスローヤーとして多方面から事業サポートを行う。