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空き家は相続放棄できる?可否を分ける条件と放棄後に残る保存義務を解説
誰も住んでいない実家に、毎年の固定資産税と草木の手入れだけがのしかかる。
そんな状況で「空き家だけを相続放棄できないだろうか」と考える方は少なくありません。
結論から述べます。
空き家も相続財産ですから、相続放棄の対象です。
ただし放棄の効果は財産全体に及ぶため、空き家だけを選んで手放すことはできません。
さらに注意したいのが、放棄したあとの義務です。
放棄した時点でその空き家を現に占有していた人には、引き渡すまでのあいだ、建物を保存する義務が残ります。
放棄すれば何もかも終わる、という理解のままでは危険です。
本記事では、空き家を相続放棄できる条件とできなくなるケース、放棄後に残る義務の範囲と終わり方、そして放棄と売却のどちらが有利かの判断基準を順に整理します。

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空き家は相続放棄できる|ただし「空き家だけ」を選ぶことはできない
空き家も土地も山林も、法律上はすべて相続財産です。
価値がない、買い手が付かないといった事情は関係なく、いずれも相続放棄の対象になります。
「建物が古すぎて放棄できないのではないか」という心配は不要です。
一方で、相続放棄には見落とされがちな性質があります。
放棄をした人は、対象となる相続について「はじめから相続人でなかったもの」として扱われるという性質です。
相続人でなかった以上、受け取れる財産も、引き継ぐ負債も、まとめてゼロになります。
そのため、負の財産である空き家だけを外し、預貯金や有価証券だけを受け取るという使い方は制度上できない仕組みです。
空き家を手放したい気持ちと、預貯金は受け取りたい気持ちの両方を満たす手段としては、放棄ではなく承認したうえでの売却が現実的な選択肢になります。
判断できる時間も限られています。原則として、自己のために相続の開始を知った時から3か月です。
- 放棄の効果は財産全体に及ぶ
- 選んで放棄する仕組みは用意されていない
- 全部承認と全部放棄の中間に限定承認がある
【参考】民法|e-Gov 法令検索
相続放棄はプラスの財産もマイナスの財産もすべて手放す手続き
相続放棄をすると、申述した人は最初から相続人ではなかったものとして扱われます。
空き家や借入金といったマイナスの財産を引き継がずに済む一方で、預貯金・株式・自動車・現金といったプラスの財産も同時に受け取れなくなります。
放棄の効果は選べない仕組みです。
遺産が「実家の空き家」と「預貯金800万円」だったとすれば、放棄を選べば800万円も手元には残らない計算になります。
空き家の維持費が年10万円だとすると、放棄によって回避できる支出よりも、手放す預貯金のほうが大きくなる場合が出てきます。
つまり、空き家が負担であることと、相続放棄が有利であることは別の話です。
遺産全体を並べて差し引きしてから判断する必要があります。
プラスの財産が多いご家庭ほど、放棄以外の出口を先に検討したほうが結果的に手残りは多くなります。
空き家だけを放棄して預貯金を受け取ることはできない
一部だけを選んで放棄することが認められていないのには理由があります。
ひとつは相続人どうしの公平です。
都合のよい財産だけを取り、負担だけを他の相続人に押し付ける行為を許せば、遺産分割は成り立ちません。
もうひとつは債権者の保護です。
プラスの財産だけが相続人に渡り、負債だけが宙に浮けば、被相続人にお金を貸していた人が回収できなくなります。
そのため「空き家だけ市に返したい」「土地は放棄して家財は引き取りたい」といった相談は、いずれも制度としては成立しません。実務上は、限定承認を除くと、放棄するか、しないかの二択です。
空き家を手放しつつ預貯金は受け取りたい場合は、相続を承認したうえで空き家を売却する道が残されています。
売却であれば売却代金も手元に入るため、放棄よりも手残りが増える場合があります。
負債がわからないときは限定承認という選択肢もある
全部承認するか、全部放棄するかの中間に、限定承認という制度があります。
相続で得たプラスの財産の範囲内でのみ負債を引き受ける仕組みで、負債の総額がわからないときに使われます。
空き家に価値はありそうだが、被相続人に借入金がどれだけあるか読めない。
借入金の額が読めないケースでは、相続財産の範囲を超えて債務を負担せずに、清算まで進められます。
ただし条件が厳しく、相続人が複数いる場合は全員(相続放棄した者を除く)そろって申述しなければなりません。
ひとりでも反対すれば使えず、連絡が取れない相続人がいるだけで頓挫する手続きです。
手続きも重く、財産目録の作成や官報公告、換価手続きが必要になります。
こうした事情から、限定承認の利用は放棄に比べてまれです。
まずは放棄と承認の二択で検討し、負債の全体像がどうしても掴めないときの選択肢として押さえておく形で足ります。
【参考】民法|e-Gov 法令検索
空き家の相続放棄ができなくなる3つのケース
相続放棄ができなくなる原因は、大きく「時間」と「行為」の2系統に分かれます。
時間は熟慮期間の経過、行為は財産に手を付けたことによる法定単純承認です。
どちらかに当てはまると、放棄の道は閉じます。
とくに危ないのが行為のほうです。
片付けや解体は前向きな行動ですから、放棄を検討している人ほど「先に手を打っておこう」と動いてしまいます。
そして動いた瞬間に、法律上は承認したものとみなされる場合があります。
しかも相続放棄は、家庭裁判所に受理されたあとの撤回はできません。放棄する前と、放棄したあとの両方に、引き返せない線が引かれていると考えてください。
下の表で、空き家まわりでよくある行為が単純承認に当たるかどうかを整理しました。
| 行為 | 単純承認とみなされるか | 補足 |
|---|---|---|
| 空き家を売却する | みなされる | 典型的な処分行為 |
| 空き家を解体する | みなされる | 自治体の補助を受ける場合も同様 |
| 空き家を賃貸に出す | みなされる | 短期の賃貸でも危険 |
| 被相続人の預貯金を払い戻す | みなされる可能性が高い | 葬儀費用への充当は例外の余地あり |
| 遺産分割協議書に署名押印する | みなされる可能性が高い | 相続人であることが前提の行為 |
| 施錠して定期的に見回る | みなされない | 保存行為の範囲 |
| 雨漏り箇所に応急処置をする | みなされない | 現状維持の範囲 |
| 空き家の査定を受ける | みなされない | 価格を調べるだけで処分は伴わない |
【参考】民法|e-Gov 法令検索
相続を知ってから3か月を過ぎた
熟慮期間は、被相続人が亡くなった日からではなく、自己のために相続の開始があったことを知った時から数えます。
同居していれば死亡日と一致しますが、疎遠だった親族の相続では、原則として、通知が届いた日が起算日になります。
先順位の相続人が放棄したことで自分に相続権が回ってきた場合も同様です。
相続権が回ってきた事実を知った時点から3か月を数えます。
熟慮期間の3か月を何もせずに過ぎると、相続人は単純承認したものとみなされます。
ただし、負債の存在をまったく知り得なかったといえる事情があるときは、起算日を後ろにずらして申述が受理される余地があります。
財産調査が終わらないまま期限が近づいた場合は、家庭裁判所へ熟慮期間の伸長を申し立ててください。
期限内に申述さえしておけば、受理の判断が3か月を過ぎてから出ても手続きとして有効です。
空き家を売却・解体・賃貸した
相続財産を処分すると、処分した人は単純承認したものとみなされます。
空き家でいえば、売却・解体・賃貸の3つが典型です。
所有者としてしかできない行為だからです。
とくに解体は最も重い処分行為に当たります。
自治体の空き家除却補助を使う場合でも扱いは同じです。
「危険だから先に壊しておこう」という判断が、放棄の道を閉ざしてしまいます。
境目になるのが保存行為です。
施錠や鍵の交換、割れた窓の応急処置、敷地の草刈りといった、現状を維持するだけの行為であれば処分には当たらないと考えられています。
財産の価値を減らさないための行為だからです。
一方で、外壁の全面塗り替えや水回りのリフォームは、現状維持を超えて価値を変えてしまいます。
放棄を検討している段階では踏み込まないほうが無難です。
迷ったら、手を付ける前に家庭裁判所や専門家へ確認してください。
被相続人の預貯金を払い戻した
金銭面でも同じ危険があります。
被相続人名義の預貯金を解約したり払い戻したりする行為は、相続財産の処分に当たると判断されやすい行為です。
空き家の管理費や固定資産税を被相続人の口座から支払う、といった対応も同じ扱いになりかねません。
遺産分割協議に加わる行為にも同じ危険がひそんでいます。
協議は相続人であることを前提とした手続きですから、署名すれば相続を受け入れたと評価されるのが原則です。
「まだ決めていない」と口頭で伝えていても、書面が残れば覆すのは難しくなります。
例外的に、社会通念上相当な範囲の葬儀費用へ充てた場合は、単純承認に当たらないと判断された裁判例があります。
ただし線引きは事案ごとで、安全圏とはいえない点に注意してください。
そして一度受理された相続放棄は、原則として撤回できません。
あとから価値のある財産が見つかっても取り戻せませんから、放棄を決める前に遺産の全体像を掴んでおくことが欠かせません。
相続放棄しても空き家の保存義務が残る条件
相続放棄をすれば空き家との関係が完全に切れる、というわけではありません。
放棄をした人であっても、放棄の時点で空き家を現に占有していた場合には、保存義務が残ります。
保存義務の規律は2023年4月1日に改められました。
改正前の呼び名は「管理義務」で、次の相続人が管理を始めるまで義務が続く仕組みでした。遠方に住み家に立ち入ってもいない相続人まで義務を負いかねない曖昧さがありました。
改正後は「保存義務」となり、対象も現に占有している人に絞られています。
義務の中身は限定されています。
求められるのは、自己の財産におけるのと同一の注意をもって保存することです。
価値を高める修繕や、危険を除くための解体までは求められません。
つまり判断すべき点は3つです。
自分が占有者に当たるか、いつまで続くか、どこまでやれば足りるか。
順に確認します。
- 誰が負うのか
- いつまで続くのか
- 何をすれば足りるのか
【参考】民法|e-Gov 法令検索
義務を負うのは「現に占有している人」だけ
現に占有しているかどうかは、相続した空き家を事実上支配しているといえるかで判断されます。
登記名義や相続分の割合ではなく、実際の関わり方を見る考え方です。
被相続人と同居していた人や、放棄の時点でその家に住んでいた人が当たりやすいといえます。
自分の家財を置いている人、鍵を管理して出入りしている人も同様です。
生活や物の保管を通じて、建物を現実に支配している状態にあります。
反対に、遠方に住んでいて一度も立ち入っていない、鍵も預かっていないという相続人は、原則として占有者に当たりません。
相続人という立場だけでは義務は生じないのが改正後の考え方です。
判断が割れるのは、年に数回だけ様子を見に行っていた、亡くなった直後に遺品整理のため立ち入った、といった中間のケースです。
事実関係の評価が必要になりますから、放棄の申述前に家庭裁判所や弁護士へ確認しておくと後の負担が読めます。
あわせて整理したいのは、相続財産の全体像や次順位の相続人の有無です。
ベンナビ不動産売却では、弁護士や司法書士と連携する会社へ、空き家の査定と相談をまとめて無料で依頼できます。
義務が終わるのは「引き渡したとき」
保存義務の終わりは、期間ではなく出来事で決まります。
次順位の相続人か相続財産清算人に対して、空き家を引き渡した時点で終了します。
3か月経てば自動的に消えるといった、時間による区切りはない点に注意してください。
そのため、次順位の相続人が誰なのかを早めに確認しておくことが実務上の第一歩になります。
相続順位は子、直系尊属、兄弟姉妹の順に移りますから、自分が放棄したあと誰に権利が回るかは戸籍から辿れます。
次順位の相続人がいない場合や、全員が放棄した場合は、引き渡す相手が不在です。
引き渡す相手がいないときは家庭裁判所に相続財産清算人の選任を申し立て、選ばれた清算人へ引き渡します。
引き渡すまでのあいだは、施錠の確認、郵便物の滞留による在宅偽装の防止、台風前後の見回りといった最低限の対応が求められます。
負担は軽くありませんから、引渡し先の確保は早いほど有利です。
求められるのは現状維持で、修繕や解体までは求められない
保存義務でやるべきことは、財産の現状を保つ行為に限られます。
日常的な作業としては、施錠の維持や定期的な見回りが該当します。
雨漏りや割れた窓への応急処置、倒れかけたブロック塀の周囲に立入禁止の表示を出す対応も保存の範囲内です。
反対に、屋根の葺き替えや外壁の全面改修といった大規模修繕は、保存の範囲を超えます。
老朽化した建物の解体も同じで、保存義務の内容には含まれない行為です。
放棄した人が自腹で壊さなければならない義務は生じません。
むしろ注意すべきは逆方向です。
よかれと思って大規模な工事や解体に踏み込むと、処分行為とみなされて単純承認に転じ、放棄の効力そのものを失うおそれがあります。
義務の範囲を超えて手を出さないことが、放棄後の空き家に対する基本姿勢になります。
空き家を放置した場合に起こりうること
保存義務を負っているのに何もしなかった場合、負担は2つの方向から降りかかります。
ひとつは近隣に損害を与えた場合の賠償責任、もうひとつは行政による指導と措置です。
空き家の総数は増え続けています。
総務省統計局の住宅・土地統計調査によれば、2023年10月時点の空き家は約900万戸で、総住宅数に占める割合は13.8%と過去最高を記録しました。
行政の対応が年々厳しくなっている背景には、空き家の増加があります。
いずれの負担も、所有者だけでなく、保存義務を負う立場の人に及ぶ可能性があります。
放棄したから無関係、とはいかない領域です。
放置の期間が延びるほど建物の劣化は進み、対応にかかる費用も膨らみます。
引渡し先を早く決めるほど、結果的に負担を抑えられます。
【参考】住宅・土地統計調査|総務省統計局
倒壊や火災で近隣に損害を与えれば賠償を求められる
建物の設置または保存に欠陥があり、欠陥が原因で他人に損害を与えた場合、まず占有者が賠償責任を負います。
占有者が必要な注意をしていたと認められるときは、所有者が責任を負う仕組みです。
空き家で起こりやすいのは、屋根材や外壁材の落下、老朽化したブロック塀の倒壊、敷地内の樹木が倒れて隣家や車を壊すといった事故です。
放火や漏電による火災が隣家へ延焼する例もあります。
損害が人身に及べば、賠償額は建物の解体費用を大きく上回ります。
空き家という資産の価値と、事故が起きたときの負担額は釣り合わない関係です。
加えて、住んでいない建物は火災保険の対象外とされたり、住宅物件ではなく一般物件として扱われて保険料が上がったりする場合があります。
保険で受け止められる前提でいると、想定が崩れます。
【参考】民法|e-Gov 法令検索
管理不全空家等・特定空家等に指定されると行政が動く
空家等対策の推進に関する特別措置法は、放置された空き家に対して市区町村が段階的に関与する仕組みを定めています。
2023年の改正では、そのまま放置すれば特定空家等になるおそれのある状態を「管理不全空家等」として新たに位置づけました。
該当すると判断されて、市区町村から勧告を受けると、税制上の扱いが変わります。
住宅が建つ土地の固定資産税を軽くする住宅用地特例が適用されなくなり、翌年度以降の税負担が跳ね上がります。
放置していたほうが安いという前提が崩れるのは、勧告を受けた段階です。
さらに状態が悪化し、倒壊のおそれや衛生上の著しい有害性が認められると特定空家等に指定されます。
助言・指導、勧告、命令と段階を踏み、それでも改善されなければ行政代執行に進みます。
代執行で市区町村が解体を実施した場合、解体費用の負担者は義務者です。
自分で解体業者を選ぶより割高になりやすく、支払わなければ財産の差押えに至る場合もあります。
【参考】空家等対策の推進に関する特別措置法|e-Gov 法令検索
空き家の保存義務から解放される2つの方法

保存義務を終わらせる方法は、引渡し先の違いによって主に2つです。次順位の相続人に引き渡すか、家庭裁判所に相続財産清算人を選んでもらって引き渡すかです。
2つの差は、費用と確実性のトレードオフにあります。
前者は費用がかからない代わりに相手の協力が要り、後者は相手の意向によらず義務を切れる代わりにまとまった費用がかかります。
まずは次順位の相続人がいるかを戸籍で確認し、いなければ清算人の選任へ進む、という順序で検討してください。
- 費用を抑えたいなら次順位の相続人への引渡し
- 引き取り手がいないなら相続財産清算人の選任
注意したいのは、どちらの方法も相手方の存在が前提になる点です。
次順位の相続人も放棄すれば、清算人を立てるほかに義務を終わらせる手段はなくなります。
どちらを選ぶにしても、動き出しが遅いほど保存義務を負う期間が延びます。
放棄の申述と並行して、引渡し先の目星を付けておくのが実務的です。
【参考】民法|e-Gov 法令検索
次順位の相続人に引き渡す
相続放棄をすると、相続権は次の順位の人へ移ります。
子が全員放棄すれば直系尊属へ、直系尊属がいなければ兄弟姉妹へ、兄弟姉妹が亡くなっていれば甥姪へと移る流れです。
次順位の相続人が相続を承認して空き家を引き受けてくれれば、引渡しをもって保存義務は終わります。
費用は基本的にかかりません。
実務で大切なのは、引き渡した事実を残しておくことです。
鍵と関係書類を手渡し、引き渡した日付・物件・受領者を書いた簡単な書面に署名をもらっておけば、後日の争いを避けられます。
注意点は事前連絡です。
何も知らせずに放棄すると、ある日突然、兄弟姉妹や甥姪のもとへ空き家と負債が回ります。
関係が壊れる原因になりますし、次順位の親族も放棄を選べば引渡しという方法自体が使えなくなります。
放棄を決めた段階で、次順位に当たる親族へ状況を伝えておいてください。
相続財産清算人の選任を申し立てる
引き取り手がいない場合は、家庭裁判所へ相続財産清算人の選任を申し立てます。
申立てができるのは利害関係人か検察官で、放棄をした人も利害関係人に含まれます。
裁判所へ納める費用そのものは少額です。
裁判所の案内によれば、収入印紙800円と連絡用の郵便料に加え、官報公告料として5,582円を納めます。
負担が重いのは予納金です。
相続財産から清算人の報酬や管理費用をまかなえない見込みのときは、申立人が不足分をあらかじめ納めます。
金額は事案によって大きく異なるため、公的な相場は不明です。
事業者が公表する目安では、1年間の管理で総額13万円から60万円以上とするものから、50万円から100万円程度とするものまで幅があります。
換価できる財産が残れば、清算後に予納金の一部が返る場合もあります。
【参考】相続財産清算人の選任|裁判所
相続放棄を決める前に、その空き家に値段が付くかを確かめる
放棄しても負担が完全には消えない点は、すでに確認したとおりです。
予納金として数十万円を納める可能性があり、プラスの財産も同時に手放すことになります。
だからこそ、放棄を決める前に確かめておきたい数字があります。
相続した空き家に、いくらの値段が付くのかという数字です。
値段が付くなら、売却して現金を受け取り固定資産税からも解放されるほうが、手残りは多くなる可能性が高まります。
建物が古くても、土地に需要があれば買い手は付きます。
再建築が難しい土地や傾き・雨漏りのある建物を扱えるのは、訳あり不動産を専門とする買取業者です。
査定を受けるだけなら処分行為には当たらないため、相続放棄の可否に影響しないのが一般的な扱いです。
ベンナビ不動産売却では、空き家や共有持分といった扱いの難しい不動産の無料査定・買取相談を受け付けています。
判断材料になる金額を先に手元に置いてから決めても、3か月の期限内には間に合います。
空き家を相続放棄するメリットと注意点
相続放棄には、得られる効果と、引き換えに生じる代償があります。
片側だけを見て決めると後悔しますから、対にして把握してください。
読者から寄せられる相談で多いのは「固定資産税がなくなるなら放棄したい」という声です。
ところが遺産に預貯金が含まれていた場合、預貯金も同時に失いますから、税負担の軽減額よりも失う額のほうが大きくなる例が珍しくありません。
反対に、負債が資産を上回るケースでは、放棄を選ばなければ借入金の返済義務まで引き継ぎます。
効果と代償のどちらが重いかは、遺産の中身によって逆転すると考えてください。
下の表に、税金・負債・管理・費用・家族・期間の6つの観点で両面を整理しました。
| 観点 | メリット | 注意点 |
|---|---|---|
| 税金 | 翌年度以降の固定資産税・都市計画税から解放される | 賦課期日時点の納税義務は残る場合がある |
| 負債 | 借入金や連帯保証を引き継がずに済む | プラスの財産もすべて受け取れない |
| 管理 | 修繕・解体の費用負担を避けられる | 現に占有していれば引渡しまで保存義務が残る |
| 費用 | 申述自体は数千円で済む | 清算人を立てる場合は予納金が必要になる |
| 家族 | 自分は負担から外れる | 相続権が次順位へ移り、親族に同じ問題が回る |
| 期間 | 受理まで1か月から2か月程度 | 受理後の撤回は原則できない |
表のとおり、放棄は「負担から外れる」代わりに「選ぶ余地を失う」手続きです。
判断の分かれ目は、相続した空き家に値段が付くかどうかに集約されます。
メリットは固定資産税と管理負担、負債からの解放
最も大きいのは、毎年の固定資産税と都市計画税から外れることです。
地方の実家であっても、土地と建物を合わせれば年に数万円から十数万円の負担が続きます。
使っていない資産に対して払い続ける支出ですから、なくなる効果は小さくありません。
負債から解放される効果も見逃せない点です。
被相続人に借入金や連帯保証があった場合、承認すれば法定相続分に応じて引き継ぐことになります。
放棄すればその義務は生じません。
将来の支出を避けられる点も実利です。
老朽化した建物はいずれ解体か大規模修繕を迫られます。
庭木の剪定や見回りを業者に委託すれば、委託費用も毎年必要です。
負債が資産を明らかに上回るケースでは、放棄で得られる効果が代償を上回り、放棄が合理的な判断になります。
注意点は財産すべての喪失と親族への影響
代償の一つ目は、プラスの財産をすべて手放すことです。
預貯金や株式、自動車といった、受け取れたはずのものが一括で対象外になります。
空き家の負担だけを見て決めると、差し引きで損をする場合があります。
二つ目は親族への影響です。
放棄によって相続権は次順位へ移りますから、空き家の問題そのものは消えず、兄弟姉妹や甥姪へ場所を変えて現れます。
相続人全員が放棄するまで、負担の連鎖は止まりません。
事前に連絡せずに放棄すると、次順位の親族が事態を知るのは債権者や市区町村からの通知を受けた時点です。
相手も3か月の期限に追われますから、対応の余地を奪う形になります。
三つ目は不可逆性です。
受理後の撤回は原則できません。
放棄を選ぶなら、遺産の全体像と空き家の価値を確認し、次順位の親族に一報を入れてから申述してください。
【参考】民法|e-Gov 法令検索
相続放棄と売却、どちらを選ぶべきか
放棄と売却の判断は、感情ではなく数字で決められます。
実家を手放すことへの抵抗は誰にでもありますが、判断そのものは条件の当てはめで足ります。
判断を難しくしているのは、多くの人が「空き家に値段は付かない」と決めつけている点です。
建物の価値がゼロでも、土地に需要があれば取引は成立します。
前提が違えば結論も変わりますから、思い込みを外してから比べてください。
以下の6つの軸に自分の状況を当てはめてください。
| 判断軸 | 相続放棄が向く | 売却が向く |
|---|---|---|
| 負債と資産の関係 | 負債が資産を上回る | 資産が負債を上回る |
| 建物・土地の状態 | 再建築不可・買い手が見込めない | 土地に需要がある |
| 立地 | 交通が乏しく需要が薄い | 市街地・住宅需要のある地域 |
| 他の相続財産 | 預貯金などがほとんどない | 預貯金など受け取れる財産がある |
| 手残り | ゼロ[予納金が出る場合はマイナス] | 売却代金から費用を引いた額 |
| 所要期間 | 申述から受理まで1か月から2か月 | 買取なら数週間から1か月程度 |
見るべき順序は、負債の有無、次に空き家の売却可能性です。
負債の有無と売却可能性が決まれば、残る軸はほぼ自動的に定まります。
どちらとも言い切れないときは、先に査定を受けて金額を出してください。
数字が出れば、放棄によって失う額と回避できる額を並べて比べられます。
相続放棄が向いているケース
第一の条件は、負債が資産を明らかに上回っていることです。
被相続人に住宅ローンの残債や事業の借入金、連帯保証があり、空き家を売っても返しきれない見込みであれば、放棄に合理性が出てきます。
第二の条件は、相続した空き家に買い手が見込めないことです。
建築基準法が定める接道義務を満たさず再建築ができない土地、崖地や不整形で利用が難しい土地、市街化調整区域で建て替えに制限がある土地などが該当します。
第三の条件は、他に受け取れる財産が乏しいことです。
遺産が空き家だけで預貯金がほとんどないなら、放棄によって失うものは実質的にありません。
3つの条件が重なるほど、放棄を選ぶ判断は明確になります。
買い手が見込めないという判断は自己判断ではなく、査定を受けてから下してください。
専門の買取業者であれば値段を出せる物件は少なくありません。
【参考】建築基準法|e-Gov 法令検索
売却して手放すほうが向いているケース
建物が古くても、土地に需要があれば売却は成立します。
買主が古家を解体して建て替える前提で購入する取引は一般的です。
建て替えを前提とするなら、建物の状態よりも土地の広さ・形状・接道が価格を左右します。
他にプラスの財産がある場合も、売却が有利に働きます。
空き家を売った代金と預貯金の両方を確保できるためです。
税制上の後押しもあります。
相続した空き家を一定の要件のもとで売却した場合、譲渡所得から最大3,000万円を控除できる特例が用意されています。
2024年1月1日以後の譲渡で、家屋と敷地を相続した相続人が3人以上いる場合は、控除の上限が1人あたり2,000万円です。
期限は、相続の開始があった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までの譲渡です。
ほかにも要件が細かく定められていますから、適用の可否は税理士か国税庁の案内で確認してください。
空き家特例は相続した人が使う制度です。
相続放棄をすれば当然に対象外になります。
売却を選ぶ場合にだけ得られる利点として覚えておいてください。
【参考】被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例|国税庁
相続放棄以外に空き家を手放す3つの方法

相続を承認したうえで空き家を手放す方法は、現実的には3つに絞られます。
売却・買取による現金化、自治体や法人への寄付、そして相続土地国庫帰属制度の利用です。
3つの性格は大きく異なります。
現金が手元に残るのは売却だけで、寄付と国庫帰属は手放すことそのものが目的になります。
国庫帰属は建物があると使えず、解体費用が別に必要になる点も押さえてください。
検討する順序にも定石があります。
まず売却で値段が付くかを確かめ、付かなかった場合に寄付や国庫帰属へ進むという順です。
3つのうち代金が入るのは売却だけですから、先に可能性を潰しておくほうが損をしません。
- 手残りが出るのは売却・買取のみ
- 寄付は受入先が見つかるかどうかに左右される
- 国庫帰属は土地限定で、建物の解体が前提になる
いずれも相続を承認したうえでの手段ですから、3か月の熟慮期間内に「放棄しない」と決める必要があります。
売却・買取で現金化する
不動産を売る方法は、仲介と買取の2つに分かれます。
仲介は不動産会社に買主を探してもらう方法で、市場価格に近い金額が期待できる一方、買主が現れるまで数か月から1年以上かかる場合があります。
買取は不動産会社が直接買い主になる方法です。
価格は仲介より低くなる傾向がありますが、数週間から1か月程度で現金化でき、買主を待つ必要がありません。
空き家では買取が選ばれやすい理由があります。
老朽化した建物や再建築不可の土地は個人の買主が付きにくく、仲介に出しても売れ残る場合があるためです。
買取であれば、売れ残りやすい物件でも取引が成立します。
契約不適合責任を免除する条件で契約できる場合が多く、売却後に不具合が見つかった際の責任を負わずに済む点も、遠方に住む相続人には利点です。
なお買取価格は業者ごとに差が出ます。
宅地建物取引業の免許を受けた業者であるかを確認したうえで、複数社に査定を依頼して比べてください。
自治体や法人へ寄付する
「自治体に引き取ってもらえないか」という相談は多いものの、現実には成立しにくい方法です。
自治体が寄付を受け入れるのは、道路用地や公共施設として使える見込みがある場合に限られます。
使い道のない土地を受け取れば、管理費用を税金でまかなうことになるためです。
代替として案内されるのが空き家バンクです。
自治体が空き家の情報を登録し、移住希望者などへ紹介する仕組みで、国土交通省が全国版の検索サイトを整備しています。
売却や賃貸の相手を探す入口として使えます。
個人や法人へ無償で譲る方法もありますが、注意したいのは税の扱いです。
個人から個人へ無償で渡せば受け取った側に贈与税がかかり、法人へ渡した場合は渡した側にみなし譲渡所得課税が生じる場合があります。
タダなら誰でも喜ぶ、とはいきません。
寄付や無償譲渡を検討する場合は、税負担まで含めて確認してください。
相続土地国庫帰属制度を使う
相続や遺贈で取得した土地を、国に引き取ってもらえる制度です。
相続土地国庫帰属制度は2023年4月27日に施行されました。
所有者不明土地の発生を抑える目的で作られた仕組みで、相続放棄と違い、他の財産は受け取ったまま土地だけを手放せる点が特徴です。
ただし対象は土地に限られます。
建物が建っている土地は却下されるため、空き家なら先に解体して更地にしてから申請します。
土壌汚染がある土地、境界が明らかでない土地、担保権が設定されている土地も対象外です。
費用も発生します。
審査手数料は土地1筆あたり14,000円で、承認された場合は10年分の管理費相当額が負担金です。
市街地の宅地では20万円が目安で、土地の種目や面積によって変わります。
つまり、解体費用に加えて負担金と手数料が出ていく仕組みです。
売却すれば代金が入るのに対し、国庫帰属は支出だけが生じます。
売れる見込みがある土地なら、まず売却を検討してください。
【参考】相続等により取得した土地所有権の国庫への帰属に関する法律|e-Gov 法令検索
空き家の相続放棄を家庭裁判所へ申述する手順
相続放棄は、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所へ申述して行います。
役所への届出や、相続人どうしの合意書では効力が生じません。
「遺産はいらない」と口頭で伝えただけでは放棄にならない点に注意してください。
| 段階 | やること | 目安 |
|---|---|---|
| STEP1 | 遺産と負債を調べ、放棄するか決める | 相続を知ってから3か月以内 |
| STEP2 | 戸籍関係の書類を集め、申述書を作成する | 1週間から3週間 |
| STEP3 | 家庭裁判所へ申述書と添付書類を提出する | 提出は郵送でも可 相続を知ってから3か月以内 |
| STEP4 | 照会書に回答し、受理通知書を受け取る | 提出から1か月前後 |
必要な書類は、相続放棄の申述書と、被相続人の住民票除票または戸籍附票です。
あわせて申述人の戸籍謄本と、被相続人が亡くなった事実および申述人との関係がわかる戸籍謄本を提出します。
配偶者や子以外の立場で申述する場合は、先順位の相続人がいないことを示すために追加の戸籍が必要になります。
費用は、申述人1人あたり収入印紙800円と、裁判所ごとに定める連絡用の郵便料です。
数千円の範囲に収まります。
提出後は家庭裁判所から照会書が届きますので、期限内に回答を返してください。
【参考】相続の放棄の申述|裁判所
空き家の相続放棄で迷ったら弁護士に相談するのがおすすめ
相続放棄は、申述の期限が3か月と短いうえに、受理されたあとは原則として撤回できません。
負債の全体像がつかめない状態や、自分が占有者に当たるのか判断がつかない状態で放棄を決めると、保存義務や予納金の負担だけが残ることがあります。
次順位の相続人に引き渡す見込みが立たないまま申述した場合も同じです。
熟慮期間の伸長、限定承認の申述、相続財産清算人の申立てはいずれも家庭裁判所の手続きで、書類の不備や説明の仕方が結果を左右します。
期限内に判断の材料をそろえるには、弁護士に相談しながら進める方法が現実的です。
ベンナビ不動産売却では、弁護士や司法書士と連携しながら訳あり不動産を取り扱う会社に相談できます。
査定を受けても処分には当たらないため、放棄するか売却するかを決める前に、金額の確認と弁護士への相談を並行して進めてください。
空き家の相続放棄に関するよくある質問
空き家を相続放棄したら固定資産税はどうなりますか?
放棄が受理されれば、翌年度以降の納税義務者から外れます。
固定資産税はその年の1月1日時点の所有者に課される税ですから、放棄後は次順位の相続人か相続財産法人が納税義務者になります。放棄後に納税通知書が届いた場合は、放棄申述受理通知書の写しを添えて市区町村の資産税担当へ連絡してください。
【参考】地方税法|e-Gov 法令検索
相続人全員が相続放棄したら空き家は誰のものになりますか?
自動的に国のものになるわけではありません。
誰かが家庭裁判所へ相続財産清算人の選任を申し立て、清算人が債務を弁済し財産を換価したうえで、残った財産が最終的に国庫へ帰属する流れです。
申し立てる人がいなければ手続きは始まらず、名義も所有者も宙に浮いたまま放置される例が多くあります。
相続放棄した空き家の解体費用は誰が負担しますか?
放棄した人が解体費用を負担する義務はありません。
保存義務の内容に解体は含まれないためです。
相続財産清算人が選任されれば相続財産のなかから支出され、行政代執行によって市区町村が解体した場合は費用が義務者に請求されます。
よかれと思って自分で解体すると単純承認とみなされますから、手を出さないでください。
【参考】空家等対策の推進に関する特別措置法|e-Gov 法令検索
空き家の相続放棄は自分で手続きできますか?
書類が揃えば本人でも申述でき、費用も数千円で収まります。
戸籍を何代も遡る場合や、すでに3か月を過ぎている場合は、事情の説明が結果を左右します。
単純承認とみなされかねない行為をしてしまった場合も同様です。
こうしたケースでは弁護士や司法書士へ依頼するほうが確実です。
相続放棄する前に空き家の査定を受けても問題ありませんか?
査定を受けるだけであれば処分行為には当たらないと考えられており、相続放棄に影響しないのが一般的な取り扱いです。
査定は価格を見積もる行為で、所有権を動かすものではないためです。
売買契約を結ぶ、手付金を受け取るといった段階に進むと処分行為に当たります。
放棄と売却を比べるために、まず査定で金額を出し、契約手前で止めておく進め方が安全です。
まとめ|空き家だけの相続放棄はできない・保存義務と売却の可能性を確かめてから決める
空き家の相続放棄について、判断に必要な点を整理します。
1つ目は可否の条件です。
空き家は相続放棄できますが、効果は財産全体に及ぶため、空き家だけを選ぶことはできません。
熟慮期間の経過や、売却・解体・賃貸・預貯金の払戻しがあると、原則、放棄はできなくなります。
2つ目は放棄後に残る義務です。
放棄の時にその空き家を現に占有していた人は、次順位の相続人か相続財産清算人へ引き渡すまで保存義務を負います。
3つ目は判断基準です。
負債が資産を上回り、買い手も見込めないなら放棄が合理的です。
反対に、土地に需要があるか他の財産があるなら、売却したほうが手残りは多くなります。
判断できる時間は3か月しかありません。
まずは空き家にいくらの値段が付くかを確かめてください。
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金額という判断材料を手にしてから決めても遅くはありません。
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